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新国立劇場『軍人たち』


ツィンマーマン「軍人たち」
2008.05.07 Wed. 19:00 新国立劇場(大)
若杉弘(指揮) デッカー(演出)
東京po.新国立劇場cho.
 マリー  ルキアネッツ S
 シュトルツィウス  オテッリ Br
 デポルト  ホーレ T
 マリ大尉  黒田博 Br


期待を上まわる舞台
 
 久しぶりに期待を上まわるオペラ公演に出会えました。新国立劇場で上演されたツィンマーマンの歌劇『軍人たち』です。
 
 20世紀後半に作曲されたこの『軍人たち』というオペラは、一般的にはその名を知られていません。普通にオペラが好きな人でも、今回、新国立劇場のシーズン・ラインナップにそのタイトルが掲げられて初めて知ったという人が多いのではないかと思います。
 
 私は特にこのオペラを見たかったわけでもなかったのですが、興味はあったので出掛けてみました。基本的に私は伝統的な、言ってみれば古くさい、つまり古典的なオペラが好きなのですが、比較的新しい20世紀の作品、または同時代の作品にも興味があります。
 
 そういった新しい作品は、私にははっきり言って何がおもしろいのかわからないものも多いのですが、わからないけど惹きつけられる場合もあり、そういう場合はわかって惹きつけられる場合よりも魅力を感じるわけです。
 
 今回のツィンマーマンの『軍人たち』について、今シーズンから大役を務めている若杉弘芸術監督は、新聞紙上の談話で次のように述べていました。
 
《このオペラの日本初演を実現するために、同劇場(新国立劇場)のオペラ芸術監督を引き受けたといっても過言ではありません。》
 
 これは少し言い過ぎだったかもしれません。新国立劇場は多くのオペラ・ファンに支えられ、その運営に対し大きな期待と不安を持っています。こんな気持ちで芸術監督を引き受けてもらっては困る……と感じてしまう人もいるのではないでしょうか。
 
 しかし、それならば、いったいどんな初演を実現させるのか、逆に興味がわいてくるものでもあります。実際、公演は芸術監督の強い意志に支えられてか、たいへん素晴らしいものとなりました。
 
 
そういえば、前回は……
 
 この『軍人たち』の公演の前に若杉芸術監督が新国立劇場のピットに入ったのは、山田耕筰のオペラ『黒船』のときです。こちらは残念ながら私は楽しめませんでした。
 
 『黒船』のときも、このオペラにおける初めての全曲ノーカット上演という話題ありの舞台だったのですが、私は第1幕に先だって演奏された長い長い序景の部分で、山田耕筰のせいか、演奏のせいかは不明ですけど、なんとなくすでに帰りたい気分に陥りました。
 
 世評としては好評だったようなので、私は聴くべきところを聴けなかったのかもしれません。
 
 
演出の成功、歌手陣の健闘
 
 けれど、『軍人たち』には、引き込まれました。好んで聴きたいとは決して思わないような無調の音楽ですが、なんとなく耳が反応してしまう。そんな演奏です。
 
 ヴィリー・デッカーの演出も、ソリストに対しても、合唱に対しても、適切な表現を実現していて、とてもおもしろいものでした。デッカーの演出といえば、2005年のザルツブルク音楽祭でのネトレプコ(S)を起用した『椿姫』について、私はかなりの高得点を付けているのですが、今回の『軍人たち』も同じような良さを感じています。感性が合うのかもしれません。
 
 歌手陣も主役級の歌手が健闘していました。かなり事前に勉強を始めていたというマリー役のヴィクトリア・ルキアネッツ(S)をはじめ、シュトルツィウス役のクラウディオ・オテッリ(T)も迫真の演技が冴えていましたし、デポルト役のピーター・ホーレ(T)もいい声でした。さらにマリ大尉役の黒田博(Br)は、外国人歌手を上まわる声の響きを持っており、無調の音楽ながら心地よくその歌を聴くことができました。
 
 
偶然の出来事
 
 こうした現代作品は、何が描かれているのかさっぱりわからないことがよくあります。私にとっては、わからないことがほとんどだったと言えるかもしれません。けれど、見て、そして聴いていると、わけもなくグサリと突き刺さる何かを発見できることがあります。
 
 第2幕の終わり、バッハの『マタイ受難曲』のコラールが引用され、異様な雰囲気の中でシュトルツィウスが次のように語る場面もそうした突き刺さったところの一つです。
 
《一日一日はまるで変わりはない、でも今日起こらなかった事が明日起こることもある、そしてなかなか起こらないことが起これば成功だ。(中略)
 一羽の小鳥が山から毎年一粒の実を運んでくれば、きっといつかはやりどげる。(中略)
 遂には、遂には、毎日、毎日小さな砂粒ひとつ、一年には、十、二十、
 三十、百、百、百……》(ギーレン盤CD対訳より)
 
 
欲を言えば
 
 最後に、少しがっかりなのが、この公演がアムステルダム・ネザーランド・オペラのプロダクションをレンタルしてきたものであるということ。別にレンタルがだめだと言っているわけではありません。どちらかというと、海外の評価の高いプロダクションを見せてもらえることは好きです。でも、もしかして今回の『軍人たち』の公演が、そっくりそのまま新国立劇場のオリジナルであったとしたら、世界の名だたる多くのオペラハウスに向かって、ちょっとは自慢できたのではないかと思えたのでした。
 
 
                             (2007/05/25)





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