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ナクソス島のアリアドネ

Ariadne auf Naxos





オペラ・データ

【作曲】
リヒャルト・シュトラウス 1911~16年に作曲

【初演】
1916年10月4日 ウィーン、国立歌劇場

【台本】
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール(ドイツ語)

【原作】
モリエールの喜劇『町人貴族』、ギリシャ神話

【演奏時間】
プロローグ 40分
オペラ 80分  合計 約2時間



あらすじ

【時と場所】 
18世紀、ウィーン

【登場人物】
作曲家(Ms)
プリマドンナ/アリアドネ(S)
テノール歌手/バッカス(T)
ツェルビネッタ(S): 道化師
ハルレキン(Br): 道化師
執事長(語り手)
音楽教師(Br)
舞踏教師(T)
ほか

【プロローグ】
時は18世紀、舞台は大金持ち貴族の邸宅。この邸宅で大夜会が開催される予定で、邸内の小劇場ではオペラ・セリア「ナクソス島のアリアドネ」の上演準備が進んでいます。この上演の監督を務める音楽教師は、格式高いオペラの後に、低級な茶番劇「浮気なツェルビネッタ」が上演されると聞いて、邸宅の執事長に不満をぶつけますが、執事長は取りあってくれません。音楽教師は、オペラを作曲した弟子の作曲家に何と説明すればいいか頭を抱えます。案の定、茶番劇のことを聞いて作曲家はがっかりし、そして憤慨します。しかし、再び執事長が現れると、さらに驚くべき指示が皆に伝えられました。この邸宅の主人から、「オペラと茶番劇を同時に上演せよ」との指示があったというのです。一同、あっけにとられます。茶番劇の主役ツェルビネッタは、アドリブでオペラに加わるためにそのあらすじを聞きます。彼女は、一途に王子を想って「死ぬ」とまで言うヒロインの役を笑いながらも、悲嘆にくれる作曲家に、うまくやるからと言って励ましました。

【オペラ】
小劇場の幕が上がり、オペラが始まります。時はギリシャ神話の時代、舞台はエーゲ海の孤島ナクソス。王女アリアドネは、アテネの王子テセウスとともに駆け落ちしましたが、テセウスは無情にもナクソス島に彼女を一人残して立ち去りました。悲しむアリアドネでしたがテセウスへの愛は変わらず、彼が帰らないのなら死なせてほしいと神に祈ります。そこにツェルビネッタが3人の道化たちを連れて登場。みんなで陽気にアリアドネを励まそうとします。ツェルビネッタは「女の心は誰にも予測できず変化するもの」と言いますが、アリアドネの耳には届かない様子。そのうちにツェルビネッタは、道化の一人ハルレキンの甘い誘いに乗って姿を消します。その後、ナクソス島に現れた神バッカスのことを、アリアドネは死の使いと勘違いし、喜んでこの世から去り、死を受け入れようとします。その場に倒れこんだ彼女のことをバッカスが抱き起こして接吻を与えると、アリアドネは新しい愛に目覚めたのでした。



解説(ポイント)

【1】 黄金タッグ、R.シュトラウスとホーフマンスタール
 
オペラ『エレクトラ』で前衛音楽の最前線までたどり着き、『ばらの騎士』でオペラのすべてを描いてみせたR.シュトラウスの次のオペラは、オペラそのものを題材にし、しかも、それを壊しにかかるというものでした。シュトラウス自身は、この作品に当初、あまり乗り気ではなかったとされますが、ホーフマンスタールがモリエールの喜劇「町人貴族」の中にオペラ「ナクソス島のアリアドネ」を組み込むというアイデアを思いつき、シュトラウスを説得しました。作曲は進んだものの、上記2つの脚本を合わせて5時間ほどの長大な作品となります。シュトゥットガルトで初演されましたが、満足のいくものにはなりませんでした。演劇「町人貴族」の観客は、オペラを聴こうとはしなかったわけです。そこでオペラから「町人貴族」を切り離し、代わりにオペラの前にプロローグを置いて短縮しました。
 
【2】 オペラの舞台裏を見せます
 
プロローグでは、18世紀ウィーン、華やかなマリア・テレジア時代に設定され、大金持ちの貴族の邸宅でオペラを上演することにしました。オペラを作曲する「作曲家」の役について、R.シュトラウスは、『イドメネオ』を作曲し、ミュンヘンの宮廷劇場で奮闘する若き日のモーツァルトをモデルにしたそうです。シュトラウスはこの役を、ホーフマンスタールの反対を押し切ってズボン役(女性が男装をして歌う)とします。音楽的には、シュトラウスはそれまでの大規模なオーケストラに変えて、古典派のような二管編成とし、それにピアノ、チェレスタ、そしてトライアングルなどの打楽器が彩りを加えます。特に即興芝居(コメディア・デ・ラルテ)の道化役が出てくる場面では、ピアノの音が起動の合図となっています。オペラの舞台裏、すなわち上演する前の準備の様子が描かれ、そこにまつわる論点、すなわち、オペラ歌手、制作サイド、スポンサーなどの悲哀が盛り込まれました。
 
【3】 アリアドネとツェルビネッタの比較
 
クレタ島のミノス王と女王パシパエの娘がアリアドネ。パシパエは牡牛と交わり、牛頭人身の怪物ミノタウルスを生み出してしまいます。迷宮(ラビュリントス)に潜む怪物ミノタウルスを倒すために、アテネの王子テセウスはアリアドネから糸玉を渡されます。テセウスは、ミノタウルスを倒した後、迷宮からの帰り道はその糸をたどって脱出することができました。テセウスはアリアドネを連れてアテネに戻りますが、その途中、エーゲ海の孤島ナクソスに彼女を置いて立ち去ってしまいました。酒の神バッカスがアリアドネを譲るように求めたとも、テセウスが別の女性を求めたとも言われています。これがアリアドネをめぐる神話の背景ですが、一途にテセウスを待つアリアドネに対して、道化のツェルビネッタは、別の男に乗り換えなさいとずけずけと言うわけです。アリアドネのアリア「すべてのものが清らかな国」"Es gibt ein Reich, wo alles rein ist" と、ツェルビネッタのアリア「偉大なる王女様」"Großmächtige Prinzessin"との比較に注目したいところです。
 


おすすめディスク

【CD】
シノーポリ指揮
ドレスデン・シュターツカペレ
フォン・オッター(Ms) ヴォイト(S) ヘップナー(T) デセイ(S)
(録音2000年、Deutsche Grammophon)
フォン・オッターの作曲家役から始まり、デセイのツェルビネッタ役など名歌手を揃えたディスク。これは、2001年4月に急逝したシノーポリの最後の録音です。








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