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ヴェニスに死す

Death in Venice





オペラ・データ

【作曲】
ベンジャミン・ブリテン(1971~72年)

【初演】
1973年6月16日 オールドバラ音楽祭、ホール「モールティングズ」

【台本】
マイファンウィ・パイパー(英語)

【原作】
トーマス・マンの小説『ヴェニスに死す』

【演奏時間】
第1幕 85分
第2幕 65分  合計 約2時間30分



あらすじ

【時と場所】 
1911年、ヴェニス、その近くのリド島

【登場人物】
アッシェンバッハ(T): ミュンヘンに住む50代の小説家
旅人ほか(Br): 一人七役
タッジオ(黙役): ポーランド人一家の美少年
ほか

【第1幕】
巨匠作家と知られたアッシェンバッハでしたが、一語も思いつかず筆が進まないことに苦悩していました。春の夕べに、ミュンヘン郊外を散歩中に出会った旅人に誘われ、太陽と南の国ヴェニスに旅立つことにします。ヴェニス行きの船上では、年配の伊達男と若者たちを見て、彼らの老いと若さの不釣り合いを不愉快に感じます。ヴェニスでゴンドラに乗ったアッシェンバッハは、船頭の勝手でリド島に連れていかれました。彼が島に到着すると、ホテルのマネージャーに著名な作家として歓迎されます。
アッシェンバッハはそのホテルでポーランド人の家族を見かけ、その中の一人、少年タッジオの美しさに惹かれました。ホテルのビーチで、太陽神アポロンの下、友人たちとスポーツで競い合うタッジオ。それを眺めていたアッシェンバッハは、ホテルに戻るタッジオに声をかけようとしますが出来ません。彼の後ろ姿を見送りながら、アッシェンバッハは「 I... love you. 」と声にしたのでした。

【第2幕】
ホテルの理髪師から、ヴェニスで流行っている病気のことを聞いたアッシェンバッハは、現地に向かいます。しかし、ヴェニスに来ても真実がわかりません。そこで彼はドイツの新聞を買い求め、これを読んでみます。そこには、ヴェニス市は否定しているもののコレラが蔓延しており、ドイツ市民は早く帰国するようにと書かれていました。しかし、アッシェンバッハは、その事実をポーランド人家族に黙っていることにしました。タッジオが母国に帰国してしまうと考えたのです。そして、もしすべての人間が死んで、自分とタッジオだけが生き残ったらどうなるかと想像しました。
理髪店で若作りしたアッシェンバッハは、再びヴェニスを訪れ、そこで家族とともにいるタッジオを見つけます。タッジオがアッシェンバッハのことを見ると、彼は顔をそむけながらも、自分のことを見たと思います。
時は過ぎ、ポーランド人一家も母国に帰るときになります。ビーチで他の少年と遊ぶタッジオ。それをいつもの椅子に座って見ているアッシェンバッハ。タッジオが他の少年に荒っぽく砂浜に倒されると、アッシェンバッハは椅子から立ち上がろうとします。しかしコレラにおかされた彼は椅子から崩れ落ちました。アッシェンバッハはタッジオが手招きしながら遠ざかるのを見送ったのでした。



解説(ポイント)

【1】 ブリテン最後のオペラ
 
ブリテンの最後のオペラで、作品番号は88です。アッシェンバッハ役は、ブリテンのパートナーだったピーター・ピアーズの声を念頭に作曲され、オペラはそのピアーズに捧げられています。円熟したブリテンの作曲技法、同じく円熟したピアーズの歌唱と解釈が見事に結実した、まさにオペラの終着地点とも言える作品です。ブリテンがピアーズに最後に残したアッシェンバッハのアリア「混沌、混沌、そして病気」"Chaos, chaos and sickness" では、ソクラテスとパイドロスの対話から、「しかし、これが美だ。それは感覚から発見される。感覚は情熱を導き、情熱は深淵へと導く」と結論付けています。オペラの最後、アッシェンバッハの死とともに、ブリテンのオペラの最終地点、もっと言えばオペラそのものの最終地点、芸術の最終地点に、我々オペラの鑑賞者を誘うことでしょう。
 
【2】 アッシェンバッハの描き方
 
原作は、オペラより先にルキーノ・ヴィスコンティによって1971年に映画化されました。マーラーの交響曲第5番の第4楽章アダージェットがテーマ曲として使用されていることでも有名です。映画ではアッシェンバッハの職業が作曲家に変更されていますが、原作者トーマス・マンは、親交のあったマーラーをアッシェンバッハのモデルの一人にしたと言われます。そういえば、グスタフ・フォン・アッシェンバッハとグスタフ・マーラーは同じ名前です。アッシェンバッハは妻に先立たれ、一人娘も結婚し、孤独に陥り、作家としての創作欲を失います。映画と違い、オペラではアッシェンバッハの内面をえぐり出すかのように緊張感のある音楽が続きます。
 
【3】 黙役の美少年タッジオ
 
アッシェンバッハが最も重要な登場人物であることに変わりありませんが、パートナーとして同じく重要な共演者となるのが一人七役(旅人、伊達男、船頭、マネージャー、理髪師、座長、ディオニソス)を受け持つバリトン歌手です。この人物の立ち回りによってオペラが一層おもしろい舞台になります。アッシェンバッハ役を歌うテノール歌手の歌唱力、それから一人七役を歌うバリトン歌手の演技力に、このオペラの成功の鍵があるのです。そして、もう一人は美少年タッジオ。この役には歌詞がなく、黙役として舞台に存在しますが、アッシェンバッハとどのように関わりを持つかが注目です。



おすすめディスク

【CD】
ベッドフォード指揮
イギリス室内管弦楽団、イギリス・オペラ・グループ合唱団
ピアーズ(T) シャーリー=カーク(Br)
(録音1974年、DECCA)
初演の翌年に、ほぼ同じキャストで収録された世界初録音。まずはブリテンの洗練された音楽とピアーズのアッシェンバッハ役を傾聴すべき。


【DVD】
ベッドフォード指揮、トニー・パーマー演出・編集
イギリス室内管弦楽団
ガード(T) シャーリー=カーク(Br)
(録画1980年、Isolde Films)
ブリテンが亡くなった後、ピアーズの要望でもあった、実際にヴェニスでロケを行った映像作品が実現しました。


【DVD】
ペレス指揮、デッカー演出
マドリード王立歌劇場管弦楽団、合唱団
ダスザック(T) メルローズ(Br)
(録画2014年、NAXOS)
デッカーの整えられた演出に、ダスザックの歌唱、メルローズの演技が際立ち、このオペラのスタンダード足りうるディスクです。








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