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1.オペラの楽しさとは?






オペラの醍醐味は「歌」と「劇」

オペラの「楽しさ」を知るには、もちろん実際にオペラを観に行って体感してみるのが一番いいのですが、それでもしっくりこない人のために、簡単にイメージできる「オペラの楽しさ」を紹介してみます。
 
オペラは、日本語で「歌劇」と呼ばれています。まずこの「歌劇」という言葉の、「歌」と「劇」をキーワードにしてみましょう。



「歌」はフィギュアスケートのように

オペラには「歌」の楽しみがあります。オペラの歌は、フィギュアスケートに似ています。フィギュアスケートは、よく冬季オリンピックなどで注目されますよね。回転したり、ジャンプをしたり・・・、選手は3回転も4回転もしながらジャンプをして技術を競っています。
 
オペラ歌手も、同じように歌の技術を競っています。例えば、ソプラノやテノールなどの歌手は、普通では考えられないような高い声を出します。しかもそれを立派に歌いきるのです。スケート選手がジャンプを成功させた瞬間に、私たちが「おおっ!」と思うのと同じように、歌手がすばらしい声を出したときも、私たちは心を揺さぶられるような感動を体験できるのです。
 
また、フィギュアスケートを見ていると、難しいジャンプの場面ではないけれど、その合間の普段のすべりが、他の人より明らかに上手に、美しくすべっている選手がいます。「芸術点」という採点もあるくらいですよね。
 
オペラ歌手についても、難しい高音を出すことだけが評価されるわけではなくて、そこにたどり着くまでの歌の旋律を、いかに美しく優雅に歌えるかは、重要なことです。
 
それから、スケートには男女がペアになってすべる競技もあります。ピッタリと動きを合わせてすべったり、二人が協力して一つの技を成功させたりします。練習を積み重ねて息を合わせなければなりません。
 
もうおわかりですよね。オペラにも、二重唱、三重唱、四重唱・・・と、歌手が協力して声を合わせて歌うアンサンブルがあります。一人で歌うときとは違う種類の楽しさを味わえることでしょう。
 
スポーツ観戦に熱中するのと同じような魅力が、オペラの「歌」にもあるのです。



同じ「劇」をくり返し観る

次は「歌劇」という言葉の「劇」についてです。
 
オペラが誕生して400年。よく公演される有名なオペラといえば、どのくらいあるでしょうか。30?50?
オペラをよく知っている人でも、観たことがあるオペラを100タイトル挙げられればいい方なのではないでしょうか。
 
たったそれだけのオペラが、繰り返し上演されています。『フィガロの結婚』や『椿姫』や『蝶々夫人』など、同じオペラが年に何回も上演されているのです。同じオペラを何回も観ておもしろいの?と、多くの人が疑問を持つことでしょう。
 
もちろんまだ観たことのない新しいオペラを観ることはとても楽しいのですが、実は、同じオペラを繰り返し観ることは、それとはまた違った楽しさがあるのです。
 
時代劇の『忠臣蔵』をご存じですよね。大石内蔵助が率いる赤穂浪士47人が吉良邸に討ち入るというあの物語です。この『忠臣蔵』も毎年、年末になるとテレビで放映されます。
 
なぜ毎回、同じような赤穂浪士の討ち入りがドラマ化されるのでしょうか。
 
まず簡単に思いつく理由は、出演者の違いです。同じ大石内蔵助でも、あの役者とこの役者がやるのでは大違い。それに加えて、敵の吉良上野介や大石内蔵助の妻りくを誰が演じるのか、注目の集まるところです。
 
もちろんオペラも同じで、例えば『椿姫』のヒロイン、ヴィオレッタを誰が歌うのか、『蝶々夫人』の蝶々さんを誰が歌うのか、やはり歌手によって結果が全然違ってきます。他の脇を固める役についても同じことが言えます。
 
そして、オペラは音楽が命。指揮者は誰か、どのオーケストラが演奏するかなども、オペラ公演の成功を左右する重要な要素です。
 
人が代われば、中身も変わる。これは、一目瞭然かと思います。ですが、「劇」の楽しさはこれだけではありません。



物語の意味を問う

重要なのは、「演出」の違いです。
 
先ほどと同じように『忠臣蔵』を例にしてみましょう。やはり主役の大石内蔵助の出番は多いですよね。彼の行動、考えていること、その他いろいろなことにスポットが当たります。
 
でも、それだけだと、毎年観るには飽きてしまいます。ときには、大石内蔵助の妻りくにスポットを当てて、その内助の功を描いたりします。武芸に秀でた堀部安兵衛の剣術を目玉にするかもしれません。また、敵役の吉良上野介をどう見せるか・・・根っからの悪人にするか、または、何か悩みを持っているのか。可能性はいくらでもあります。そのため、毎年、全く違った『忠臣蔵』が出来上がるのです。
 
オペラもこれと同じです。特に現在は「演出の時代」と言われて随分経ちます。オペラに登場する人物をどのように描くか。どのような性格とするか。その「解釈」が問われるのです。
 
「解釈」というと、少し難しいかもしれません。でも、オペラを何回か鑑賞すればわかってきます。そのオペラのストーリーのそれぞれの場面は、どういう意味があって、それをどのように演じ、歌い、表現するのか。オペラの公演はそれぞれ、細かい一場面の表現に、いろいろな違いが現れます。
 
オペラ鑑賞は、「物語を追う」だけではなくて、「物語の意味を問う」ものなのです。
 
ですので、オペラを観る場合は、先にあらすじを読んでおくことをおすすめします。あらすじを読んで、だいたいの流れを頭に入れます。ラストもどうなるか確認します。そして、実際、オペラを鑑賞するときには、そのオペラがどのように演出されながらラストシーンにたどり着くか、よく考えながら観てみます。いや、本当にいい演出なら、鑑賞している私たちを、自然と考えさせてしまうのです。
 
それは、例えば映画のように、結末を知らないでハラハラしながら観る楽しさとはひと味違う、豊かな楽しさを提供してくれるはずです。
 
 
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