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サムソンとデリラ






オペラ・データ

【作曲】
カミーユ・サン=サーンス(1866〜77年)

【初演】
1877年12月2日 ワイマール、大公歌劇場(ドイツ語)
1890年3月3日 ルーアン歌劇場(フランス語)

【台本】
フェルディナン・ルメール(フランス語)

【原作】
『旧約聖書』 士師記第13章〜第16章

【演奏時間】
第1幕 40分
第2幕 40分
第3幕 30分  合計 約1時間50分



あらすじ

【時と場所】 
紀元前1150年頃、パレスチナのガザ

【登場人物】
サムソン(T): ヘブライ人の士師
デリラ(Ms): ペリシテ人の女
ダゴンの大祭司(Br): ペリシテ人の神ダゴンに仕える祭司
ほか

【第1幕】
時は紀元前1150年頃、舞台はパレスチナのガザ。ヘブライ人(ユダヤの人々)は、このとき海の民ペリシテ人に支配されて苦しんでいました。ヘブライ人の士師の一人で、神から怪力を授けられたサムソンは、民衆の先頭に立ってペリシテ人たちに戦いを挑み、ヘブライ人を解放します。英雄となったサムソンは、人々から讃えられました。しかし、ペリシテ人の巫女とともに現れたデリラは、サムソンを誘惑します。サムソンは心を乱され、彼女の妖艶な魅力に惹かれていきます。
 
【第2幕】
ソレクの谷にあるデリダの住まい。デリダはそこでサムソンを待ちますが、その前にペリシテ人の大祭司が現れます。彼はデリダに対し、ペリシテ人の危険な敵であるサムソンを捕らえて引き渡せば、好きなだけ富を与えると言いました。デリダはかつて大祭司をも凋落した愛の力で、サムソンに勝ってみせると言い返します。大祭司が去った後、そこに、ためらいながらも、デリダへの愛に捕らわれたサムソンが現れます。デリダはサムソンに対し、自分への愛が本物であるなら、神に与えられた怪力の秘密を打ち明けるように迫りました。サムソンは、神を裏切る行為を拒否し続けます。しかし、髪を切らないことで得ていた怪力の秘密を、とうとう彼女に打ち明けてしまいました。デリダは、サムソンが寝ている間に彼の髪を切り、待ち伏せしていたペリシテ人の兵士を家に引き入れました。
 
【第3幕】
ガザの監獄に捕らわれたサムソンは、視力を奪われ、鎖につながれたまま石臼を引かされています。ヘブライ人たちも再びペリシテ人たちに支配され、ペリシテ人たちはダゴンの神殿で歌い、踊り、勝利を祝います。引き出されたサムソンを前に、大祭司は彼のことを嘲笑し、デリダは誘惑の力を誇りました。ペリシテ人たちが勝利に歓喜する中、サムソンは神殿を支える柱に手をかけ、今一度、失った怪力を与えたまえ、と神に祈りました。その怪力は蘇り、柱を破壊したことで、神殿が崩れ落ちます。サムソンとともに、デリラ、大祭司、ペリシテ人たちは神殿の瓦礫の下に押しつぶされたのでした。



解説(ポイント)

【1】 旧約聖書を原作としたオペラ
 
このオペラの原作は、旧約聖書の士師記第13章から第16章に記述されているサムソンの物語です。「士師」とは、古代イスラエル人を救済したとされる英雄のこと。サムソンは12人の士師の一人で、神から怪力を授けられていました。聖書に書かれたエピソードでは、ライオンをヤギのように裂き殺したり、ロバの顎の骨を持ってペリシテ人を1,000人殺したりしています。しかし、その神の力の秘密は、決して頭にかみそりを当ててはならないとされていました。オペラの完成当時、サン=サーンスは、すでにフランスで名声を得ていましたが、旧約聖書を基にしたオペラを上演することをパリ・オペラ座は拒否します。そのため、サン=サーンスの理解者だったフランツ・リストの助力によってドイツ・ワイマールで初演されました。
 
【2】 オラトリオのような荘厳な音楽
 
当初、サン=サーンスは、メンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」などを支持しており、この「サムソンとデリラ」の物語を使用したオラトリオを作曲することを構想していました。ところが、台本を書いたルメールは、その物語の中にドラマ性を見出し、これをオペラとして作曲することでサン=サーンスを説得します。結果として、この『サムソンとデリラ』は、早熟の天才だったサン=サーンスが作曲した13のオペラの中で最も成功を得た作品となりました。今日までオペラハウスのレパートリーとして定着しており、例えば第3幕冒頭のサムソンの後悔を歌うアリア「この惨めさ、辛さをご覧ください」など、オペラとしての優れた感情表現が実現しています。とはいえ、第1幕冒頭のヘブライ人の合唱から始まり、多くの荘厳な音楽は、オラトリオのような敬虔さに溢れています。
 
【3】 デリラの誘惑
 
同時期にパリのオペラ・コミック座で初演されているビゼーの『カルメン』と比較して、同じくメゾ・ソプラノであること、同じく男性をその魅力によって誘惑することなど、カルメン役とデリラ役の類似点は多く指摘できます。もちろん相違点も考えると興味は尽きません。カルメンと同様、デリラには多くの名アリア・名場面が用意されており、第2幕の誘惑のアリア(途中、サムソンとの二重唱になります)「あなたの声に心は開く」のほかにも、第1幕のラストの「春が来れば、恋する心に希望がもえて」や、第2幕冒頭の「恋よ!弱い私に力を貸して」など、いくつもの聴かせどころがあります。



おすすめディスク

【CD】
サー・コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団、合唱団
クーラ(T) ボロディナ(Ms)ラフォン(Br)
(録音1998年、Erato)
 
イギリスの指揮者とオーケストラ、アルゼンチンのテノール、ロシアのメゾ・ソプラノというフランスに縁のないキャスティングながら、優れた音響を実現しています。

【DVD】
レヴァイン指揮、モシンスキー演出 メトロポリタン歌劇場管弦楽団、合唱団
ドミンゴ(T) ボロディナ(Ms)レイフェルクス(Br)
(録音1998年、Deutsche Grammophon)
 
メトロポリタン歌劇場の1998年シーズン開幕で米国国歌から始まるこの公演は、ドミンゴのメトロポリタン歌劇場デビュー30周年を祝う記念公演でした。当然、ドミンゴの充実した歌唱には、目を見張るものがあります。







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