なかなか把握しきれない20世紀のクラシック音楽を新書の形で概観した本です。新書なのにズシリと重い。頁数は、資料等と含めて446頁。それだけで20世紀の音楽がどういうものなのか察しが付きます。
しかし、本当に20世紀クラシック音楽はわかりにくくて近寄りがたいものなのでしょうか。この本の著者はこう言います。
《少なくとも我が国においては、クラシック音楽の「語り手たち」がいまだなお20世紀音楽のおもしろさを充分伝え得ていない。》
なるほど、わかりにくいのは「語り手たち」のせいかもしれません。
《むずかしい。多くは音楽用語満載で、率直にいってなんのことを問題にしているのかもよくわからないものばかりだった。》
痛快ですね。確かによくわからない本が散乱しています。こうした指摘をしているからには、本書はその逆でなければなりません。本書はその意味では成功していると思います。ただ紹介している作曲家や曲目が多少偏っているようです。個別の曲解説は省いて、もっとハンディーな形で全体像を俯瞰してほしいところでした。
著者の専攻は、20世紀美術史です。この点では、音楽の専門家よりも客観的な目で見ています。
《20世紀音楽の進みゆきや、そのつどのトピックは、決して「音楽の世界」という孤立的な分脈上に生起したものでもないし、そこにとどまるものでもない》
難しいですか。このくらいの難易度はあります。けれど、全体を通してわかりやすい本です。
本書では「現代音楽」を扱っているのではなく、「20世紀音楽」を扱っています。ですから、本文の始めは、ワーグナー、ブルックナー、ブラームスからスタートします。知っている作曲家の部分を先に眺めてみるのもいいかもしれません。
なお、本書では珍しいオペラのあらすじをかなり詳細に扱っていますが、ここには著者のオペラに関する見方がにじみ出ています。興味深いので、少し長いのですが引用しておきます。
《オペラというすぐれて19世紀的な産物であり、20世紀においては凋落の一途を辿る、交響曲と並んでいわば恐竜のような存在に、20世紀の作曲家たちがなお拘泥し書き続けたのはなぜなのか? そこには20世紀という「時代」が孕む、ひどく屈折しながらも、と同時にきわめて切実な世界認識への希求が内在しているのではないか? そこには20世紀音楽のひどく深刻な、しかしまさにそれゆえに創造的でもある『運命』が、かすかに、しかしまた鮮やかに透けて見えてくるのではないか? それを知るためには、彼らが選んだテクストの内容を仔細に見ることが回り道に見えて実は最短の近道なのではないか?》
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