脳科学者の茂木氏と、現代音楽の作曲家である江村氏の対談。新書という形でやさしい言葉を使いながら、クラシック音楽を取り巻く現状について語り合っています。
これがなかなかよくできているのです。音楽の本質まで到達しようとしています。
特に私が驚いたのが、この記述です。
《(江村)聴衆という立場であっても、音楽と対峙するという意味では作曲家や演奏家といっしょであって、自分の音楽を探そう、創ろうとしているのです。だから聴くということ、音楽鑑賞ということは非常にクリエイティブな仕事です》
「聴く」という行為を、「作曲する」や「演奏する」と同列に、しかも納得のいく説明を受けたのは、これが初めてだと思います。
《(江村)楽譜を通じて自分が聴きたい音楽、自分の表現、自分のショパンというものを一生懸命探している。そうして生み出されたものが本物の演奏です。だから演奏家も、とてもクリエイティブな仕事です。作曲だけがクリエイティブなのではありません》
私は声楽を専攻して、オペラや歌曲を歌ってきましたし、大学では作曲の先生に無理にお願いして見てもらっていました。そして、「作曲だけがクリエイティブなのではない。演奏も、鑑賞も、同じ土俵にあるのではないか」ということを実感していたものの、それを言語化することはできませんでした。
《(茂木)われわれは聴くことと創造することをとうしても非対称のものと考えがちだけれども、実はつながっている。聴くことは、決して受け身ではなく、自分にぴったりと合ったなにものかを探すという意味を考えると、かなり創造的な行為になりますね》
これだけでも、この本を読んだ価値がありました。もやもやしていたものが消えて、気持ちがよくなりました。やさしい言葉でわかりやすく書かれているので、ぜひ多くの人に読んでほしいと思う一冊です。
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