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流刑地にて
In The Penal Colony
【作 曲】
【初 演】
【台 本】
【原 作】
【演奏時間】
【時と 場所】
フィリップ・グラス(Philip Glass)
2000年8月31日
シアトル、コンテンポラリー・シアター
ルドルフ・ヴルリッツァー(英語)
フランツ・カフカの小説『流刑地にて』
全1幕 約1時間10分
熱帯にある島・流刑地
【登場人物】
旅人(T)
将校(Br)
ほか
=司令官に招待された訪問者
=司令官の部下
【全1幕】
舞台は熱帯にある島、ここは流刑地。罪人が最後に処刑される場所。この地の司令官に招待された旅人は、処刑の現場に立ち会うこととなりました。ここの処刑の執行にはいかにも不思議な機械を使っています。処刑の執行人である将校は、次のように説明しました。「罪人を寝かせ、機械に罪状の書かれた書面をセットすると、罪人の身体にその罪状が書き込まれていく。罪人が自分がなぜ処刑されるのかを知り、処刑が完結するのは12時間後。その間に罪人は悟りの境地に至るのだ……」
この処刑の方法は、前の司令官が発明したもので、現在の司令官はこれを廃止しようとしていました。しかし、処刑執行人の将校は、前司令官のやり方に誇りを持ち、これを維持したいと思っています。そこで彼はこの旅人に、反対しないように求めたです。司令官に感想を求められても黙っていてほしい、と。
旅人は断ります。なぜ処刑されるのかも教えず、弁護する機会も与えず、非人道的なこの処刑方法には反対だと主張しました。もし旅人が司令官に反対の意を伝えれば、この処刑方法は廃止となるのは明らかです。
すると、この将校は自ら機械の上にあがりました。そして「公正にせよ」と書かれた書面を機械にセットしたのです。将校は旅人に手を貸してほしいと言いますが、旅人はそれを断りました。
機械は動き出しましたが、その動きは精度を欠き、将校は即死してしまいます。その死に顔は、確信に満ちていて、全く贖罪の印は見られなかったのでした。
【1】 現代オペラの楽しみ
※このオペラは、2000年にシアトルで初演された現代オペラです。1600年頃に生まれたオペラが400年という年月を経て、どのような芸術に到達したのでしょうか。現在でも数多くのオペラが現代作曲家の手によって創作されています。モーツァルトやプッチーニに限らず、たまにはこんなオペラを見てみて、同時代の息吹を感じてみてもいいかもしれません。現代オペラを見るコツは、その緊迫感、緊張感にあるのではないかと思います。音楽が進化し、そして辿り着いたところは、普通に楽しめるものとは異質なものとなってしまったかもしれません。しかし、そこには普段の生活にはない研ぎ澄まされた感性の世界が広がっています。
【2】 アメリカを代表する現代作曲家グラス
※作曲家のフィリップ・グラスは、1937年に生まれたアメリカを代表する現代作曲家の一人です。グラスは最初、歴史上の有名な人物に基づくオペラを作曲し、『浜辺のアインシュタイン』(アインシュタイン)、『サティヤグラハ』(ガンジー)、『アクナートン』((エジプト王アクナートン)の3部作が有名です。現代音楽の一つの流れである「ミニマル音楽」の旗手とされたグラスは、すでにそれを超えた音楽へと発展しています。
【3】 カフカの不気味な世界
※目を覚ますと自分が虫になっていたという小説『変身』で有名なカフカ。それにも増して不気味な世界を描いたこの『流刑地にて』が、現代を代表する作曲家の手によってオペラとなりました。弦楽五重奏が最初から最後まで持続して音を鳴らし続け、この流刑地という場所を描き出します。聴き手はあたかもその地に立っているかのような錯覚に陥るのです。テノールとバリトンによるダイアローグも緊張感にあふれ、ラストの旅人の歌唱にも注目。
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