二期会がツェムリンスキーの『フィレンツェの悲劇』とプッチーニの『ジャンニ・スキッキ』を二本立てで公演しました。両方のオペラとも、イタリア・フィレンツェを舞台とする物語という粋な組合せでした。おそらく、客席も「花の都フィレンツェ」を想像して、『ジャンニ・スキッキ』の有名なアリア「私のお父さん」などをお目当てにしていたのではないかと思います。
しかし、今回の公演は、そんな期待を裏切って、演出を担当したオーストリアの女流演出家カロリーネ・グルーバーが、両方のオペラに、非常に前衛的なアレンジを施しました。どんなアレンジかというと、まず『フィレンツェの悲劇』は「SM」の怪しい世界となっていました。これは、さすがに二期会も評判がよくないと思ったのか、事前に「演出上一部倒錯的性表現が含まれます。ご理解のうえご鑑賞賜ります様お願い申上げます」というお知らせ葉書を送ってきたほどです。出演者変更のお知らせ葉書をもらうことはあっても、こんな葉書をもらったのは私も初めてでした。
後半の『ジャンニ・スキッキ』は、『フィレンツェの悲劇』の続きという設定で、登場人物全員が今風の派手な格好をしています。肝心の「私のお父さん」のアリアを歌うラウレッタは女子高生の格好です。
ロビーで会話をしていたおば様が「こんなオペラに9千円も払っちゃったわよ」と大きな声で話していました。
最近では、日本でも前衛的な演出が多くなっています。同じ二期会でも、例えば、2004年7月に宮本亜門が演出したモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』など、賛否両論がありましたが、私は、宮本亜門がそれ以前に演出した『フィガロの結婚』の後に練り上げたすばらしい舞台だったと思います。
ですが、今回の2本立ての公演は、同じフィレンツェを舞台とするオペラを続けて上演するという趣旨から、もっと違うやり方があったのではないでしょうか。
歌手陣で良かったのは、『フィレンツェの悲劇』で冷静にきちんとした歌唱をみせた多田羅迪夫(Br)と、要所を締めた菅有実子(Ms)、そして『ジャンニ・スキッキ』でひとり気を吐きプロらしい歌唱を披露した直野資(Br)でした。
クリスティアン・アルミンク指揮する新日本フィルは、両オペラとも、とてもいい出来でした。新日本フィルの今後のオペラの演奏にも期待したいところです。
(2005/08/01)
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