ロベルト・アラーニャ(T)がマンリーコ役を歌ったこの公演。テノール・リリコのアラーニャは、年齢とともに少しずつスピントの役をモノにして、脱皮をはかろうとしている途上だと言えるのでしょうか。多くのレパートリーを要求されるのはスター歌手の宿命かもしれませんが、このマンリーコを十分歌い切れていたかというと・・・、私はもう少しパワーでねじ伏せるくらいの「強さ」がほしかったかなと思いました。でもさすがアラーニャ、いい声でしたし、いい歌を聴かせてもらいました。
初日はコンディションが今一つだったらしいレオノーラ役のダニエラ・デッシー(S)。それでも、私が聴いたこの日(11日)は、すばらしい出来だったと思います。写真等から感じられる私の偏見からか、大味な歌を想像していたのですが、うれしい誤算で、実に繊細な表現を聴いて驚きました。こうした印象は、やはり生で聴いてみた方がわかりやすいですね。
他のソリストも十分な歌唱で楽しめました。『イル・トロヴァトーレ』にふさわしく、声の競演を堪能した気がします。
ボローニャ歌劇場の公演はこの『イル・トロヴァトーレ』を含めて3演目。また、今月はメトロポリタン歌劇場が3演目、ベッリーニ大劇場が2演目と引っ越し公演が続きます。オペラを観る多くの機会に恵まれるのはいいことだと思いますが、本当にこんなに引っ越し公演が必要なのでしょうか。
今回の『イル・トロヴァトーレ』は休日だったにもかかわらず、2,3,4階席に空席が目立ちました。3階席の一部のブロックには、ほとんど空席という所もありました。これでは、高いお金を払った人(S席5万7千円)や、低価格帯のチケットが取れなかった人に失礼でしょう。
ポール・カランの演出は標準的でした。しかし、それ以上でもなく、それ以下でもない。今回の演出は「月」を重要な要素としていました。・・・でも、私の席からは舞台奥の月が見えません。どんな月なのかあわててプログラムを開き確認しました。2万円を出したくらいでは、演出家自身が「重要」と言っている「月」を見せてもらえず、2,500円のプログラムに掲載された写真で満足せざるを得ません。私は何を観に行ったのでしょうか。
カルロ・リッツィ指揮のボローニャ歌劇場管弦楽団は縦の線が揃わず、何度もヒヤリとさせられました。ただ横の線は、非常に雄弁な歌い方で、こちらは聴いた価値があったかとも思います。日本のオケとの違いは、改めて考える楽しみがありました。
ただ全体的にみて、このような引っ越し公演ならば、歌手だけ引っ張ってきて、とにかくオペラを見せていた数年前の新国立歌劇場の方が、チケットが安い分だけ、よほどいいと思いました。
時々、本当に一流の歌劇場が、日本に居ながらにして楽しめる機会があるというのは、とても幸せなことだと思います。
けれど、やはり地道に、国内のオペラを、日本のオペラを作っていく方に、私は期待したいです。
(2006/06/12)
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