ドイツ・オペラの初期の傑作であるウェーバーのオペラ『魔弾の射手』のディスコグラフィーに、新たなDVDが加わりました。ニコラウス・アーノンクール指揮のチューリヒ歌劇場の公演です(録画1999年)。このディスクは、アーノンクールが指揮するチューリヒ歌劇場管弦楽団がしっかりとした演奏を実現していて、充実した内容となっています。
加えて注目すべきは歌手陣で、物語の軸となるマックス役のペーター・ザイフェルト(T)とカスパール役のマッティ・サルミネン(Bs)は、特に強烈な印象を与えます。
ザイフェルトの演じたマックスは、およそライフルの似合わない男。そんな男が、次第に「魔弾」に引きつけられていく展開は非常にリアルです。また、サルミネンは、その大柄な体格と声の太さからは考えられないくらい、細かい表現を駆使しています。彼の個性的な演技が、悪魔に取りつかれたカスパールという役を見事に浮き上がらせました。
女声陣も上出来です。エンヒェン役のマリン・ハルテリウス(S)は、最近の活躍が目立っていますが、このディスクでも非常に安定感があり、聴いていて好感が持てます。アガーテ役のインガ・ニールセン(S)の声は、いかにもドイツ的な響きでいいのですが、アガーテは花嫁役なので、もう少し若手を起用してほしかったと思います。
その他、ラストに重要な立ち回りをみせる隠者役のラースロー・ポルガル(Bs)が、すばらしい歌唱と演技をしていて、劇が引き締まりました。このラストシーンだけでも見る価値があります。
ルート・ベルクハウスの演出は、スタンダードなものから少し離れた抽象的な舞台です。しかし、『魔弾の射手』の世界観は残っています。少し中途半端だったかもしれませんが、例えば、「魔弾」を製造するシーンで、「人間」をうまく使ってその製造過程を表現するなど、おもしろいアイデアも随所に見られました。
『魔弾の射手』の世界を壊すことなく、しかし少し歪ませた見せ方をしています。じっくりと味わえる、いいディスクでした。
(2005/09/04)
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