1996年1月に火災に見舞われたヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場は、その名フェニーチェ(不死鳥)のとおり蘇り、2004年11月、再び開場されることとなりました。そのこけら落とし公演の映像がこのDVDです。ちなみにオペラ『椿姫』は、このフェニーチェ歌劇場で初演されていました。こうした歴史的背景もあり、オペラハウスの新たなスタートのためにこの作品が選ばれたのでしょう。
そうは言っても、今回のプロダクションは、ただ『椿姫』を上演したのではありません。ヴェルディが「このオペラは現代風の衣装で演じられなければならない」と言っていたように、このDVDに収められた公演では、現代的に『椿姫』が演出されています。それも結構、露骨な表現を使っているのです。
演出はロバート・カーセン。他のオペラでも、ひと癖もふた癖もあるセンスのいい舞台を作っており、この超有名オペラ『椿姫』をどのように料理してくれるのか非常に楽しみに見てみました。
結果は……、確かにいろいろとおもしろい点が随所に施されていたのですが、全体としてはどうもしっくりこなかったという感想を持ちました。さて、どこが納得できなかったのでしょうか。
それはうまく表現できないことなのですが、どこか少しずれているところがあると私は感じているようです。
まずヴィオレッタ役のパトリツィア・チョーフィ(S)のきつい表情。もちろん、高級娼婦という世間に受け入れられない役ではあるのですが、アルフレードの誠実なアプローチによって真の愛に目覚めるというこのオペラのある種ロマンティックな展開にはどうも相応しくないように見えます。弱さの見えない演技なんですね。そういうヴィオレッタにはイマイチ感情移入できません。
対するロベルト・サッカ(T)が歌うアルフレードも、DVDの解説書には「パパラッチのように写真を撮りまくる」と書かれていましたが、私にはアイドル写真を撮っているオタクにしか見えませんでした。ですので、裏社会の社交界の中でアルフレードが一人だけ浮いているように感じるのです。
ジェルモン役のドミトリ・ホロストフスキー(Br)にも納得できません。何を演じても格好いいこの男が、なぜこんなにダサイのかと驚いたくらいでした。
もちろん、以上の主役陣の歌唱は非常に素晴らしいわけです。それだけでもこのDVDは見てみる価値があります。
そして、演出の方向性にも理解ができます。例えば、枯れ葉に見立てた「お札」がばらまかれた舞台など、おもしろい!と思うところはたくさんあります。けれど、少しだけ私のセンスとは違っていて、本当に少しの違いなのですが、それは私が受け入れることのできない種類のものなのです。
ついでに言えば、指揮者ロリン・マゼールの作った音楽にも、上記と同じ種類の受け入れられない表現があります。遅すぎるテンポで演奏した部分や、最終音の音の切り方など、私はくすぐったくてムズムズしました。
この舞台ならば、同じキャストでオーソドックスな『椿姫』を見せてくれた方がよほどうれしい……と感じたのですから、おそらく私はこのDVDに対して、全体としては高くは評価していないのでしょう。部分的なアイデアに多くの発見があったので、見てみる価値は十分にあると思いますけどね。
(2007/11/01)
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