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  トップ > オペラで世間話 > DISC 08/01/15



DVD『モーゼとアロン』


シェーンベルク「モーゼとアロン」
録画1975年
ギーレン(指揮) ユイレ、ストローブ(演出)
 オーストリア放送交響楽団、合唱団
 モーゼ  ライヒ Bs
 アロン  ドゥヴォス T


もちろん一般向けとは言い難いけれど
 
 シェーンベルクの未完の大作オペラ『モーゼとアロン』。このオペラのいいディスクはないかと探していました。ブーレーズ盤だとか、東京交響楽団のライブだとか、それなりに定盤として評価が高いものもあるのですが、私が一押ししたいのは、この映画版『モーゼとアロン』のDVDです。
 
 ただし、おすすめといっても、万人におすすめしたいわけではありません。
 
 それ以前に、この『モーゼとアロン』というオペラ自体、誰でも楽しむことができるとは到底思いません。今や、他にわかりやすい娯楽が巷に溢れかえっています。どうして忙しい毎日の2時間を費やして、こんな無調のわかりにくいオペラを見る必要があるのでしょうか。普通にオペラを楽しんでいる人なら、ヴェルディやプッチーニのオペラを見ることをおすすめします。
 
 逆に、オペラに対して大きな情熱を傾けている・・・それも半端でなく・・・人には、『モーゼとアロン』はかなり楽しめる作品だと思います。そして、そういった人はぜひ見ておいた方がいいのがこのDVDです。
 
 
どこがおもしろいのか?
 
 前置きが長くなりましたが、このDVDは、シェーンベルク生誕100年にあたる1974年に、映画監督のダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブが映画化したものです。
 
 すごいのは、この難曲中の難曲をすべて同時録音しているところです。オーケストラの演奏はあらかじめスタジオで録音されているものの、その演奏にあわせて歌手は実際に歌っています。しかも、主な舞台となっているのは古い円形劇場で野外なのです。
 
 映像自体は、普通に『モーゼとアロン』です。「普通」というのは、なにか読み替え演出をしてあるとか、映画ならではの手法を取っているということでもなく、普通にオペラ映画だと思います。・・・普通の人が見たら、退屈だろうと思います。
 
 私も、何がおもしろいのか文章で表現するのは至難の業です。無責任ですが、こればかりは見てもらうほかありません。きっとおもしろいはずです。
 
 
調性音楽の命運
 
 注目すべきが、シェーンベルクが完成できなかった第3幕の部分が音楽なしの台詞のみで再生されているところです。
 
 このオペラを見ていると、モーゼとアロンが主張していることについて、シェーンベルクの十二音技法と調性音楽のことをすぐに想起することと思います。
 
 アロンは、民衆を鎮めるために目に見える偶像が必要だと判断しました。これが音楽でいうところの調性。モーゼはそうした目に見える偶像を非難し、目に見えない全知全能の神を主張します。それがシェーンベルクの十二音技法というわけです。そして、この目に見えない神は、なかなか民衆に受け入れられません。
 
 シェーンベルクは、このオペラで最終的にモーゼを勝利者として描いていますが、その勝利の場面である第3幕に音楽を付けることができないまま、このオペラは未完で終わっています。
 
 シェーンベルクは何を思っていたのでしょうか。
 
 第3幕の台詞から少し引用してみます(DVDに付いているリブレットの対訳と映画の字幕の訳は違うものとなっています。引用はリブレットから)。
 
 アロン「あなたが概念を用いて、頭へと語るものを、私は像を用いて心へと語る定めでした」
 
 モーゼ「像とともにあなたからは言葉が逃げ去り、あなた自身は、像の中に生きることになった、人々のために造ってやろうとした像の中に。根源からも、想念からも疎外されて、言葉にも像にも満足できなくなって・・・」
 
 =====
 
 アロン「あなたの言葉が、解釈を受けることなく人々に伝わった試しはない。それゆえ私は杖を携えて岩に向かい、岩の言葉で語ったのです、人々も理解できる岩の言葉で」
 
 =====
 
 モーゼ「この者(アロン)を自由にせよ、生きる力があるのなら、生きてゆくであろう」
 
 
                             (2008/01/15)





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