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DVD『ローエングリン』


ワーグナー「ローエングリン」
録画2006年
ナガノ(指揮) レーンホフ(演出)
 ベルリン・ドイツ交響楽団、
マインツ・ヨーロッパ合唱協会、
リヨン国立歌劇場合唱団
 ローエングリン  フォークト T
 エルザ  クリンゲルボルン S
 テルラムント  フォックス Br  
 オルトルート  マイアー Ms
 国王  ペーター・ケーニヒ Bs
 伝令  トレケル Br


ケント・ナガノの冴える指揮
 
 久々に会心の一作に出会ったというようなDVDの出現です。それを素直に喜びたいと思います。
 
 2006年に収録されたバーデン・バーデン祝祭劇場の『ローエングリン』。まずベルリン・ドイツ交響楽団を指揮したケント・ナガノの手腕に賛辞を送りたいところです。
 
 同じくバーデン・バーデン祝祭劇場において、2004年、『パルジファル』が上演されたときのナガノの指揮ぶりに接していて、その緊張感と集中力にあふれた演奏に感心していたのですが、今回の『ローエングリン』でも本当にいい演奏をしてくれました。こういう演奏であれば、くっきりと描かれた音楽の輪郭を、目を閉じて聴いていたいものです。
 
 しかし、そう目を閉じていることもできません。演出のニコラウス・レーンホフの舞台は、光の扱い方のセンスが良く、シンプルな舞台は空虚なのではなく、『ローエングリン』の望ましい世界観を実現しています。ローエングリンのかぶっているヘルメット(?)だけは少しおかしかったのですが……。
 
 
新しいローエングリン
 
 歌手陣も総じて充実しています。まず悪役の二人。テルラムント役のトム・フォックス(Br)とオルトルート役のワルトラウト・マイアー(Ms)が素晴らしい演技を見せています。この二人の存在がなければ、この舞台は平凡なものに終わっていたでしょう。
 
 ローエングリン役のクラウス・フローリアン・フォークト(T)は評価の分かれるところだと思います。ワーグナーを歌うには、声がリリック過ぎるきらいがあり、ある程度パワーの必要なところで満足のいく歌唱となっていません。
 
 しかし、例えば第3幕第2場のローエングリンとエルザが婚礼の日の夜を迎え、ローエングリンが「祝いの甘い歌の響きがやみ、私たちは二人きりとなった……」と静かに語りかけるように歌い出すところなどは、やはりこのフォークトのリリックな歌声が活かされています。
 
 また、白鳥が近づいてきたときに「私に聖杯が迎えを遣わした」と言うところなども、その真摯な歌声にドキリとします。フォークトのローエングリンは、これはこれでおもしろいローエングリン像です。
 
 
芸術的瞬間
 
 このDVDの白眉とも言える場面は、ローエングリンが自らの出生を語る「ローエングリンの名乗り」です。ここでも、フォークトの柔らかく、そして美しい歌声が場面にふさわしい響きを作り出しています。
 
 そしてこのとき、国王ハインリヒ1世の胸に抱かれたエルザ役のソルヴェイグ・クリンゲルボルン(S)の表情が何とも言えません。ここまで2時間以上をかけてこのオペラを鑑賞してきて、このディスクを見て良かったなと思える芸術的な瞬間ではないかと思います。取り返すことができず後悔したときや、感謝の気持ちを後で気が付いたときなど、私たちはこうした心境になることも多いのではないでしょうか。
 
 そんなことを改めて考えさせてくれる「ローエングリンの名乗り」となっているのです。
 
 『ローエングリン』を見たことのない人、もしくはこれからワーグナーの作品を鑑賞してみたいと思っている人に、ファースト・チョイスとしておすすめできるディスクです。
 
                             (2008/08/01)





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