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【作曲】
モデスト・ムソルグスキー(1839〜81年)
【初演】
1874年2月8日 サンクトペテルブルグ、マリインスキー劇場(原典版改訂稿)
【台本】
作曲者本人(ロシア語)
【原作】
アレクサンドル・セルゲエヴィチ・プーシキンの史劇『ボリス・ゴドゥノフ』
ニコライ・ミハイロヴィチ・カラムジン『ロシア国家史』
【演奏時間】
プロローグ 25分
第1幕 45分
第2幕 40分
第3幕 50分
第4幕 60分 合計 約3時間40分
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【時と場所】
16世紀末、ロシアとポーランド
【登場人物】
ボリス・ゴドゥノフ(Bs): ロシア皇帝
シュイスキー公(T): 名門出身の公爵
ピーメン(Bs): ボリスに敵対する老僧 グリゴーリー(T): 若い僧、僭称者となる
マリーナ(Ms): ポーランドの貴族の娘
ワルラーム(Bs): 浮浪者
聖なる愚者(T): 神の声を聞く者
ほか
【プロローグ】
時は16世紀末、舞台はロシア。イヴァン雷帝の息子ディミトリ―が、7歳でボリス・ゴドゥノフによって密かに謀殺されたことを前提に物語が進みます。イヴァン雷帝の死後、ディミトリ―の異母兄のフョードルが帝位につきますが、彼は精神薄弱であり、ボリスが摂政として君臨します。そしてフョードルも早世すると、摂政のボリスのもとに帝位が渡りました。
戴冠式で、強制された民衆に讃えられ、ボリスは「モノマフ公の冠」を得て皇帝(ツァーリ)の地位につきますが、幼児殺しの罪の意識にさいなまれて得体の知れない恐怖心を持ちます。
【第1幕】
皇太子暗殺の犯人がボリスだということを知っていた老僧ピーメンは、弟子のグリゴーリーにその真相を伝えます。皇太子が生きていれば自分と同い年だったことを知ったグリゴーリーは、自らが殺された皇太子だと名乗り、すなわち「僭称」し、偽ディミトリ―となります。支援を受けるため敵国ポーランドに向かいますが、途中、リトアニア国境で僭称者を捜索する警視に捕まりそうになります。グリゴーリーは、浮浪者のワルラームを身代わりにして逃亡に成功しました。
【第2幕】
6年間、ボリス・ゴドゥノフはロシアを安定的に治めていました。しかし、その心中では、皇帝としての正統性を自ら疑い、呪われた運命におののきます。
【第3幕】
ポーランドに渡ったグリゴーリーは、貴族の娘マリーナと恋に落ちます。マリーナの野望は、ロシア女帝の地位。愛を偽って正教徒のグリゴーリーをカトリックに改宗させ、ロシアに軍を進ませます。
【第4幕】
ボリス・ゴドゥノフは、廷臣のシュイスキー公から、偽ディミトリ―(僭称者)がポーランドの支援を受けて蜂起したとの報告を受けます。これを受け、ボリスは幼児殺しの幻覚を見て錯乱し始めました。老僧ピーメンも、天使となった皇太子が盲目の老人を治癒した奇蹟の話をボリスに物語ります。ボリスは皇太子の幻影に怯え、苦しみ、ついには息絶えます。
モスクワに進軍してきた偽ディミトリ―(僭称者)は、浮浪者の群衆に囲まれ、人々は彼を真の皇帝として讃えます。そのとき、聖なる愚者が進み出て、ロシアの動乱期を予感し、民衆に「正教徒の群衆よ、ロシアの不幸だ、泣け、泣け」と歌ったのでした。
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【1】 ロシアを代表する歴史オペラ
ロシア「五人組」の一人、ムソルグスキーは、その生涯で7つのオペラを手がけましたが、最終的に完成したのはこの『ボリス・ゴドゥノフ』の一作品のみでした。この作品は、ロシアの国家史を背景にした国民主義的なオペラです。13世紀にモンゴルの侵入を受けた、いわゆる「タタールのくびき」時代を経て、14世紀にはモスクワ公国が興り、ロシアは統一に向かいました。厳しい恐怖政治を行ったイヴァン雷帝の治世に最盛期を迎えます。そのイヴァン雷帝に認められて権力者の地位に就いたのがボリス・ゴドゥノフです。しかし、ボリス・ゴドゥノフが皇太子ディミトリ―を暗殺したことは、現代の歴史学者の研究で否定されています。プーシキンの原作やムソルグスキーのオペラは、皇太子暗殺をドラマの契機として、ボリスが精神的に追いつめられていく様を描き出しました。
【2】 多くの改訂版による様々な物語
ムソルグスキーが作曲した原典版初稿は1869年に完成しましたが、帝室劇場の理事会から上演を拒否されました。当時のロシアでは劇場は国有化されており、上演するには許可が必要だったのです。拒否の理由の一つとして、女性の役が出てこないことが挙げられました。そこで、第3幕にポーランドの場面を加えたのが原典版改訂稿で、1872年に完成しました。また、リムスキー・コルサコフがオーケストレーションを書き換えた改訂版(1896年)と、その改訂版第二稿(1908年)があり、後者によってこのオペラは広く一般に上演されるようになりました。この他にも、ショスタコーヴィチがオーケストレーションを行ったものなどもあり、こうしたエディションの多さからも、元のオペラの魅力と可能性の高さを窺い知ることができます。
【3】 ボリス・ゴドゥノフの人間性をえぐり出した音楽
このオペラの音楽としての聴きどころは、バス歌手が歌うボリス・ゴドゥノフの歌にあります。ボリスはプロローグの登場場面からすでに不吉な予感に苦しんでいます。第2幕では、最高権力を手にしながら思い悩み、最終幕の「ボリスの死のモノローグ」を含め、その感情表現をムソルグスキーが音楽で描き切りました。また、ワルラームの有名なアリア、老僧ピーメンの語る奇蹟の物語、聖愚者の歌う美しい旋律など聴きどころが多くあります。しかし、このオペラの真の主役は、合唱かもしれません。ロシアの民衆の声こそが、オペラの成功を左右すると言えるでしょう。
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【CD】
ゲルギエフ指揮
サンクトペテルブルグ・キーロフ歌劇場管弦楽団、合唱団
プチーリン(Bs)ヴァネーエフ(Bs) ガルージン(T) ボロディナ(Ms)
(録音1997年、PHILIPS) |
原典版の1869年版と1872年版の両方が収められているディスクで、各幕を聴き比べることができます。なお、ロシア文学者の亀山郁夫氏による日本語対訳が付いているところも大変うれしいディスクです。
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