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ポッペアの戴冠






オペラ・データ

【作曲】
クラウディオ・モンテヴェルディ(1642年)

【初演】
1642年12月26日 ヴェネツィア、サン・ジョヴァンニ・エ・パオロ劇場

【台本】
フランチェスコ・ブゼネッロ(イタリア語)

【原作】
コルネリウス・タキトゥス『年代記』

【演奏時間】
プロローグ 10分
第1幕 80分
第2幕 60分
第3幕 40分  合計 約3時間10分



あらすじ

【時と場所】 
皇帝ネローネ(ネロ)の治世下(紀元62年)、ローマ

【登場人物】
ポッペア(S): ネローネの愛人
ネローネ(T、S): ローマ皇帝
オッターヴィア(Ms): ローマ皇妃
オットーネ(Br、cT): ローマの騎士長
ドゥルシッラ(S): 宮廷の女官
セネカ(Bs): 哲学者
ほか

【プロローグ】
「運命」の神と「美徳」の神が、自分たちの力が一番だと言い合っているところへ、「愛」の神がやってきます。「愛」の神は、今日、私の力をお見せしましょうと言ったところでオペラは幕を開けます。
 
【第1幕】
時は皇帝ネローネの治世下、舞台はローマ。皇帝ネローネは、ローマの騎士長オットーネの妻ポッペアと情事を重ねていました。もちろん皇帝ネローネの妃オッターヴィアは、その事実を嘆いています。
ネローネは、自分の家庭教師であるセネカに、皇妃オッターヴィアと別れ、ポッペアと結婚をすることを決めたと伝えます。セネカは諌めますが、ネローネは激怒しました。
他方、騎士長オットーネも、妻ポッペアを制止しようとしますが、受け入れられません。彼はポッペアのことはあきらめ、宮廷の女官ドゥルシッラに慰めてもらうのでした。
 
【第2幕】
セネカはネローネが死を命じる前に、自ら命を絶ちました。
皇帝ネローネの暴走を止めることができないと悟った皇妃オッターヴィアは、オットーネにポッペアの殺害を命じます。オットーネは躊躇したものの、やむなく引き受けることになりました。
オットーネは女官ドゥルシッラから衣服を借り、女装をして王宮内のポッペアの寝室に忍び込みます。寝ているポッペアの頭上に剣を振りかざしたそのとき、愛の神がそれを遮りました。同時にポッペアも気が付き、オットーネはその場から逃げ去りました。
 
【第3幕】
その衣服が目撃されたため、ドゥルシッラが犯人として捕らえられます。ネローネは彼女を死罪としますが、そこへオットーネが現れて、皇妃オッターヴィアの命令であったことも含め、すべてを白状します。ネローネは、オットーネとドゥルシッラを国外追放とし、皇妃オッターヴィアも船に乗せ海に流し追放することに決めました。
ネローネとポッペアにとっては、すべてがうまくいき、王宮では愛の神が祝福する中、ポッペアの戴冠式が行われたのでした。



解説(ポイント)

【1】 オペラの開祖モンテヴェルディ
 
現在、一般的に親しまれているオペラの中で、スタートに位置するのがモンテヴェルディの作品ではないでしょうか。モンテヴェルディはバロック時代より少し前、ルネサンス後期に重要な活躍をした作曲家です。どのくらい時代が古いかというと、この『ポッペアの戴冠』の初演後100年を経てようやくモーツァルトのオペラが現れます。モーツァルトから150年の間に私たちがよく接するオペラ『椿姫』や『蝶々夫人』などの全てが入ってしまうことを考えれば、どれだけモンテヴェルディの活躍していた時代が古いのかわかると思います。それなのに、そのオペラとしての完成度は驚くべきもので、オペラ的な要素は、その後の多くの傑作オペラにまったく引けを取りません。
 
【2】 恐るべし皇帝ネロ
 
「オペラ」というものが誕生して以来、オペラはギリシア神話などを題材としてきましたが、この作品は史実に基づいています。暴君として名高いローマ皇帝ネロは、哲学者セネカを家庭教師とし、17才で若くして皇帝となりました。当初はセネカの助言により立派にローマ帝国を治めていましたが、女性関係を発端として歯車が狂ってきます。オペラと違う点は、セネカはポッペアとの結婚後に陰謀の罪で、また、オッターヴィアは不貞の罪で自殺に追いこまれています。とはいえ、皇帝ネロのような決して善人でない人物を中心として、その周囲の人々の心理を描き出したこのオペラは、革新的であったと言えるでしょう。
 
【3】 天才的作曲家の最晩年のオペラ
 
モンテヴェルディが75才のときに作曲したこのオペラは、モンテヴェルディの最後の作品とされています。音楽的にも充実しており、ポッペアとネローネの二重唱はオペラの核として聴かせてくれます。また、オッターヴィアが最後に歌う「さらば、ローマよ!さらば、祖国よ!」は、極めて悲痛な気持ちを訴えかけますし、セネカの人生を達観した歌唱もいい味を出しています。また、物語からは少し離れたところで、脇役がコミカルな動きを加えています。プロローグにおける神々の対話も、オペラ全体の意味を提示しており、非常に巧いつくりです。



おすすめディスク

【CD】
ガーディナー指揮
イングリッシュ・バロック・ソロイツ
マクネアー(S) ハンチャード(S) オッター(Ms) チャンス(cT) ボット(S) ダルテーニャ(Bs)
(録音1993年、ARCHIV)
 
このディスクが、現在のこのオペラの定盤と言えるのではないでしょうか。ポッペア役のマクネアーとセネカ役のダルテーニャの歌唱が特に光ります。また、おもしろいのは、運命の神をオッターヴィア役のオッターが、美徳の神をドゥルシッラ役のボットが歌っているところ。愛の神に負けるのは、ポッペアの存在に退けられる二人の女性というわけです。


【CD】
カラヤン指揮
ウィーン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
ユリナッチ(S) シュトルツェ(T) リローヴァ(Ms) ヴィーナー(Br) ヤノヴィッツ(S) カーヴァ(Bs)
(録音1963年、Deutsche Grammophon)
 
少し古くてしかもライブ録音なので、聴きにくい点もありますが、昔流の大らかな作りがどことなくいいなと思わせるディスクです。シュトルツェの癖のある声が、ネローネのイメージに合います。


【DVD】
アーノンクール指揮、ポネル演出
チューリヒ歌劇場管弦楽団、モンテヴェルディ合唱団
ヤカール(S) タピー(T) シュミット(Ms) エスウッド(cT) ペリー(S) サルミネン(Bs)
(録音1979年、Deutsche Grammophon) 
 
このオペラの映像といえば、このアーノンクール盤が有名です。しかし、私はどちらかというとこのオペラは現代風に見せてくれる方が好きです。ローマ帝国の時代の話なのに現代風にしても違和感がないという点に、このオペラのいい点が凝縮されているのではないかと思っているからです。それでも、まずは基本からということで、このディスクを。







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