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【作曲】 リヒャルト・ワーグナー(1846〜48年)
【初演】 1850年8月28日 ヴァイマール、宮廷歌劇場
【台本】 作曲者ワーグナー自身による(ドイツ語)
【原作】
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩『パルツィファル』ほかローエングリン伝説
【演奏時間】
第1幕 60分
第2幕 80分
第3幕 70分 合計 約3時間30分
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【時と場所】 10世紀前半、ベルギーのアントウェルペン
【登場人物】
ローエングリン(T): 聖杯守護の騎士
エルザ(S): ブラバント公の娘
テルラムント(Br): ブラバントの伯爵
オルトルート(Ms): テルラムントの妻
ハインリヒ1世(Bs): ドイツ国王
ほか
【第1幕】
時は10世紀前半、舞台はアントウェルペンのスヘルデ河のほとり。この地を治めていたブラバンド公国に、ドイツ国王のハインリヒ1世が訪れました。このときブラバンド公国は大公が死去し、娘エルザとその弟ゴットフリートが残されていました。二人の後見役だった伯爵テルラムントは、ドイツ国王に次のように訴えました。「エルザは弟を誘い森に散策に出掛け、一人で戻ってきました。ゴットフリートは行方不明です。犯人はエルザ。私がエルザに替わりブラバンドの領主にふさわしい・・・」
この告発に対し国王は、一騎打ちの決闘で決着をつけるように言います。エルザは自分の代わりに戦う騎士として、夢に出てきた「白鳥の騎士」を指名します。エルザが祈ると、なんと本当に白鳥に乗った騎士ローエングリンが現れたのです。ローエングリンは自分の名と素性を訊ねないならば戦おうと言いました。エルザは承諾します。そして、ローエングリンは一騎打ちで伯爵テルラムントに勝利したのです。これでエルザの容疑は晴れました。
【第2幕】
伯爵テルラムントは、命は助けられました。そして、妻のオルトルートと「白鳥の騎士の正体」を疑っていました。妻オルトルートはエルザに近寄り、白鳥の騎士の素性を問うようにそそのかします。実はこのオルトルートは妖術使いで、ゴットフリート失踪の真犯人でした。エルザをおとしいれ、ブラバンドの地を手に入れようとする陰謀だったのです。
【第3幕】
エルザとローエングリンは結婚しました。その夜、寝室で二人きりになると、エルザは愛する人のすべてを知りたいという想いを募らせます。そしてついに禁じられた問い、すなわち白鳥の騎士の名と素性を教えてほしいと口にしたのでした。
ローエングリンはドイツ国王と兵士たち、そしてエルザの前で、自分の名と素性を明かします。ローエングリンは聖杯王パルツィファルの子、聖杯に仕える騎士であり、正体を知られた以上、この地を去らなければならないと言いました。
やって来たときと同じように白鳥が小舟を引いてスヘルデ河畔に到着します。ローエングリンが白鳥の鎖を取ると、白鳥は行方不明だったゴットフリートの姿となりました。妖術を破られたオルトルートは絶命します。
ローエングリンは、小舟に乗っていずこへと去っていきました。エルザは悲しみのあまり弟ゴットフリートの腕の中で息絶えたのでした。
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【1】 ワーグナーの芸術の萌芽
ワーグナーはこのオペラを「3幕からなるロマン的オペラ」と呼んでいました。やがてオペラではなく「楽劇」という理念を打ち立てるワーグナーの第一歩として、各場面は同じ曲調で一貫性を保ち、アリアやレチタティーヴォといった明確な分類もありません。また、序曲ではなく「前奏曲」を採用しています。つまり序曲としてオペラの本筋から分離させるのではなく、もっと簡略で内容的にもオペラの本筋にそった音楽を、各幕の冒頭に提示したのです。こうしてこの作品は、その後のワーグナーの芸術の萌芽を予感させながらも、調性は明確でわかりやすく、愛好家に親しまれています。
【2】 初演の事情
ワーグナーはこの『ローエングリン』を完成させた頃、政治活動を活発化させていたことから、スイスへの亡命を余儀なくされていました。そこで『ローエングリン』の初演に際しては、このとき親交を深めていたフランツ・リスト(超絶技巧のピアノ曲で有名なあのリストです。)が一肌脱ぎました。政治犯となっていたワーグナーの作品を上演するのは難しいことでしたが、リストは自分が宮廷楽長を務めているヴァイマール宮廷歌劇場で、1850年8月28日、ゲーテ生誕101年で多くの人がヴァイマールに集まっていた日に初演することができました。ワーグナー本人は、その後ウィーンでこのオペラを観て、「涙が出るほど感激した」と言っています。
【3】 白鳥の騎士ローエングリン
人気の秘密は、なんといっても白鳥の騎士ローエングリンの存在感にあります。それまでのワーグナーのオペラの「オランダ人」や「タンホイザー」に比べても、他の作曲家の全オペラを見渡しても、ここまで格好いい役はなかなかありません。第1幕で白鳥に導かれて登場するシーンは感動的ですし、第3幕でエルザと結婚した後、二人きりで交わす対話も、最終的には悲劇となるものの、十分聴かせてくれます。ちなみにこの結婚式のときに「婚礼の合唱」として歌われるのが、ワーグナーの「結婚行進曲」として私たちがよく耳にするものです。
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【CD】
ショルティ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
ドミンゴ(T) ノーマン(S) ニムスゲルン(Br) ランドヴァ(Ms) ゾーティン(Bs)
(録音1986年、DECCA) |
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ショルティとウィーン・フィルによる1958年からのワーグナーの『ニーベルングの指環』の録音は有名ですが、この『ローエングリン』は、同コンビによるワーグナー全曲録音で最後の作品となりました。その関係およそ30年の円熟の音楽となっています。国王の伝令官役のディースカウ(Br)も贅沢。
【DVD】
アバド指揮、ウェーバー演出
ウィーン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
ドミンゴ(T) ステューダー(S) ヴェルカー(Br) ヴェイソヴィチ(Ms) ロイド(Bs)
(録音1990年、Deutsche Grammophon) |
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ついこちらもドミンゴのローエングリンを取り上げてしまいましたが、この映像を見ると納得していただけるはず。ドミンゴの神々しいローエングリン役のおかげで、見ていて違和感なくこのロマンティックなオペラに入り込むことができます。
【DVD】
ナガノ指揮、ジョーンズ演出
バイエルン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
カウフマン(T) ハルテロス(S) コッホ(Br) シュスター(Ms) フィシェッサー(Bs)
(録音2009年、DECCA) |
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白鳥の騎士がTシャツで出てくるなど現代に読み替えた演出にとまどうかもしれませんが、ローエングリン役のカウフマンとエルザ役のハルテロスの歌唱と演技、そしてナガノの指揮に導かれた音楽が圧倒的にすばらしく、最大級の賛辞を贈りたくなります。
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