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マクロプロス事件

Věc Makropulos





オペラ・データ

【作曲】
レオシュ・ヤナーチェク 1923~1925年に作曲

【初演】
1926年12月18日 ブルノ、国民劇場

【台本】
作曲者が原作を一部削除して(チェコ語)

【原作】
カレル・チャペクの戯曲『マクロプロス事件』

【演奏時間】
第1幕 30分
第2幕 30分
第3幕 30分  合計 約1時間30分



あらすじ

【時と場所】 
1922年、プラハ

【登場人物】
エミリア・マルティ(S): オペラ歌手
グレゴル(T): 訴訟の依頼人
プルス(Br): 訴訟の相手
コレナティー(BBr): 弁護士
ヴィーテク(T): 弁護士事務所の秘書 
ほか

【第1幕】
時は1922年、舞台はプラハのコレナティー弁護士の事務所。その秘書ヴィーテクは100年続く裁判に敗訴することが濃厚で残念がります。依頼人のグレゴル氏は、100年前に死去したプルス男爵の領地は、男爵が生前のうちに祖父が譲り受けたもの、すなわち自分のものだと訴えているのです。しかし、プルス家は、領地について男爵がマッハ・グレゴルという人物に譲ると言っていたが、これはグレゴル氏の祖父(フェルディナント)のことではないと主張していました。
さて、この事務所に、ソプラノ歌手エミリア・マルティが訪れます。エミリアはグレゴルvsプルス事件の詳細を聞くと、マッハ・グレゴルというのは聞き間違いで、それはエリアン・「マックグレゴル」のことを指し、フェルディナントはその女性とプルス男爵の間にできた子で、相続権があると主張しました。そして、プルス男爵の遺言書はプルス家に存在し、どの引き出しにあるかも正確に言うのです。

【第2幕】
プルス家の跡取りプルス氏は、オペラ劇場を訪れ、エミリアに会いにきました。なぜ遺言書があること、そして、その場所まで知っていたのかと問います。また、フェルディナントの出生届もあったが、その母親はエリナ・マクロプロスとあり、このマクロプロス氏が誰かわからなければグレゴル氏に遺産は渡せないと主張しました。さらにもう一つの封書があったことをエミリアに伝えます。エミリアは、その封書の方に強く関心を示し、それを売るようにプルス氏に求めました。エミリアのことに魅了されていたプルス氏は、今晩、エミリアの泊まるホテルの部屋にそれを持っていくことを約束します。

【第3幕】
翌朝、エミリアと一晩を明かしたプルス氏は、約束どおりエミリアに封書を渡しました。そのとき、コレナティー弁護士事務所の面々がやってきます。コレナティーは、エミリアから受け取った「マックグレゴル」が書いた手紙が偽物で、その筆跡からエミリアが偽造したものだと主張します。ただし、プルス家から出てきた手紙などもすべてエミリアの筆跡だったので、皆が困惑し始めます。
ウィスキーを片手に酔ったエミリアは真実を話し始めました。彼女の真の名はエリナ・マクロプロス。年齢は337歳。父は16世紀末の神聖ローマ皇帝の侍医であり、彼は皇帝の命で不老長寿の薬を作りました。皇帝は、まず侍医の娘エリナを実験台として薬を飲ませます。すると、エリナは意識を失ったので、侍医を処刑しました。しかし、エレナは目を覚まし、不老長寿の薬の処方箋を書いた紙を持って諸国を逃げていました。彼女はその後、男爵と恋に落ち、その紙を入れた封書を彼に預けていたのでした。
エミリアは、300年の人生が退屈であり、こんなに長く生きるものではないと語り、封書の中身はもういらないと言います。不老長寿の薬の処方箋は、皆の前で燃やされたのでした。



解説(ポイント)

【1】 珍しいSFサイエンス・オペラ
 
チェコのオペラ作曲家ヤナーチェクは、その生涯で『イェヌーファ』に代表される9作のオペラを創作し、特に後期の4作は傑作ぞろいとなっています。その最後から2番目の作品であるこのオペラ『マクロプロス事件』は、オペラ史の中では珍しくSFサスペンスものであり、注目すべき秀作です。原作の戯曲は、チェコの作家カレル・チャペク(1890-1938)によるもので、チャペクは「ロボット」という言葉を生み出したとされる作家です。1922年にプラハで初演されたこの戯曲を見て、ヤナーチェクはすぐにチャペクにオペラ化の許諾をとります。契約の関係で少し遅れましたが、これを解決し、作曲に取りかかりました。
 
【2】 短い人生だからこその意味と価値
 
チェコのプラハに都がおかれたルドルフ2世の治世下(1576-1612)、錬金術師が活躍した時代。宮廷で皇帝に仕えた一人の医者は、300年寿命が延びる薬を作るように命じられます。医者の名は、ヒエロニモス・マクロプロス。皇帝はまず、医者の16歳の娘エリナにその薬を飲ませると、彼女は意識を失い倒れます。皇帝は激怒し、医者を処刑しましたが、エリナは1週間ほど寝ていただけで回復し、不老長寿の処方箋をもって世界を放浪しながら逃げます。300年後、エリナは自身の寿命が迫っていることを悟り、再び300年の生命を得ようと処方箋を手に入れるべく暗躍するのです。そのストーリーはコレナティー弁護士事務所から始まります。そして最終場面でエリナ・マクロプロスが少しずつその生涯を明らかにし、謎解きをするのです。エリナは300年生きていたものの、その精神は滅んでいました。人生の意味と価値を感じて、彼女は死を選びました。
 
【3】 鬼気迫る最終場面
 
オペラ歌手エミリア・マルティは、337歳として、一人で様々な人物として描かれます。堂々としたプリマ・ドンナから、母としての立場、欲しいものを手に入れるための誘惑者、そして実年齢としての老婆、これら全ての人物が一つのオペラの一つのソプラノの役に凝縮されており、オムニバス形式のオペラと捉えることも可能です。そのため、聴きどころは多く、第1幕のマルティとそのひ孫グレゴルとの対話「とうとう!―うまくやったわ、グレゴル!」"Konečně! ...Dobre, Gregore!"、第2幕のマルティとプルス氏の封書をめぐる対話「お許しください、初めにこのような質問を」"Dovolte mi dříve otázku"、そして、なんといっても圧巻は、第3幕の最後の謎解きの場面「封印は、イニシャルがついている」"Pečitítko s iniciálkou"です。



おすすめディスク

【CD】
マッケラス指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
ゼーターシュトレーム(S) ドヴォルスキー(T) ズィーテク(Br)
(録音1978年、DECCA)
マッケラスとウィーン・フィルによるヤナーチェクのオペラ・シリーズ。1964年、このオペラのイギリス初演を手がけたマッケラスによる録音。弁護士事務所、オペラ劇場の舞台、ホテルの一室という動きの少ないこのオペラは、ブックレット片手に耳だけで楽しむのに最適。


【DVD】
サロネン指揮、マルターラー演出
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
デノケ(S) ヴェリ(T) ロイター(Br)
(録画2011年、UNITEL CLASSICA)
ザルツブルク音楽祭の公演。このオペラはなんといってもエミリア・マルティ=エリナ・マクロプロス役のソプラノ歌手が中心となりますが、デノケが最高水準の歌唱を見せてくれました。







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