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モーゼとアロン






オペラ・データ

【作曲】
アルノルト・シェーンベルク(1930〜32年)

【初演】
1957年6月6日 チューリヒ、市立劇場(舞台上演)

【台本】
作曲者シェーンベルク自身による(ドイツ語)

【原作】
旧約聖書『出エジプト記』第2、3、32章

【演奏時間】
第1幕 50分
第2幕 50分  合計 約1時間40分



あらすじ

【時と場所】 
紀元前16世紀頃、エジプト

【登場人物】
モーゼ(語り): 古代イスラエルの預言者
アロン(T): モーゼの代弁者
ほか

【第1幕】
時は紀元前16世紀頃、舞台はエジプト。この地でイスラエルの民はファラオに囚われて苦しんでいます。神はモーゼに「イスラエルの民を救う預言者となれ」と告げました。モーゼは「民衆に伝わるように語ることが自分にはできない」と言うと、神は「アロンがお前の代弁者となるだろう」と言いました。
モーゼは“目に見えない”全知全能の神を崇拝せよと説くようにアロンに言います。それこそが真の神だと言うのです。しかし、アロンは目に見えない神を民衆が理解できるかどうか疑問に思っていました。
案の定、民衆は目に見えない神を信じることができず、騒ぎ始めます。このとき、アロンはモーゼの杖をヘビに変えたり、病人を癒したりして民衆の目前で奇蹟を起こします。驚いた人々は、目に見えない神を支持するようになりました。
 
【第2幕】
モーゼは、神から「掟」を受け取るために山にこもっていました。その間、40日。モーゼはもう帰らないのではないかと次第に民衆が騒ぎ始め、民衆のうちの長老達は、アロンに何とかするように言います。仕方なくアロンは、黄金の子牛、つまり目に見える神を偶像として民衆に与えました。
民衆は偶像を前に狂喜乱舞します。家畜を殺し生肉をむさぼり、老人は自殺し、4人の裸の処女が生け贄にされ・・・。そしてそこへモーゼが神の戒律が刻まれた石版を持って帰ってきたのです。
モーゼはなぜ偶像を置いたのかとアロンに激しく言い寄ります。アロンは、民衆を鎮めるためには目に見える偶像が必要だったと説明しますが、モーゼは石版に刻まれた十戒を示し、これこそが民を導くものだと主張します。しかしアロンは、その十戒ですら偶像の一つではないかと反論します。
目に見えない神を理解させることができないとモーゼは絶望しました。
「言葉だ、ああ、私に欠けているのは言葉だ!」と叫びながら……。



解説(ポイント)

【1】 十二音技法で書かれたオペラ
 
シェーンベルクと言えば、それまでの調性を崩壊させ、システマティックに無調の響きを得る十二音技法を編み出した作曲家として有名です。この十二音技法は、20世紀の初頭のウィーンに現れた潮流の一つであると狭い意味で捉えることもできますが、良くも悪くも音楽の世界に多大な影響を与え、その後のクラシック音楽の行き詰まりに一役買ったのは事実でしょう。12音からなる基本音列とそこから導かれる48の音列から機械的に作曲される十二音技法を全編に施したオペラが、この『モーゼとアロン』です。
 
【2】 未完成オペラ……幻の第3幕
 
シェーンベルクはこのオペラの構想を何年にもわたって練っていました。1930年にオペラの台本を作成し、その後、第2幕まで作曲を進めました。しかし、ヒトラーによりユダヤの家系だったシェーンベルクは迫害を受け、アメリカに移住します。シェーンベルクは亡くなる直前まで作曲再開を試みようとしていましたが、結局、第3幕は作曲されず、このオペラは未完に終わりました。第3幕の台本によれば、モーゼとアロンの論争はモーゼに軍配が上がっています。第3幕を作曲できなかったシェーンベルクには、この展開に何か考えるところがあったのでしょうか。
 
【3】 この難曲の聴きどころは?
 
演奏者にとっても難曲とされ、十二音技法で作曲されたこのオペラの聴きどころがどこなのか、はっきりと指し示すことは困難です。第2幕にかなりの盛り上がりを見せますが、果たしてこのオペラを楽しく鑑賞するのはどうしたらいいものやら……。日本では、1970年にベルリン・ドイツ・オペラ、1996年に東京交響楽団、2007年にベルリン国立歌劇場が上演したことを確認できます。2007年の公演は私も観ましたが客席はいっぱいで、みんなどのように楽しんだのか聞いてみたくなりました。芸術はいろいろですね。



おすすめディスク

【DVD】
ボーダー指揮、デッカー演出
ボッフム交響楽団、ルール・コールヴェルク合唱団
デューシング(語り)コンラート(T)
(録音2009年、EURO ARTS)
 
演出家デッカーによる舞台があまりに壮絶で、前衛的な演出がオペラ全編を通じて続きます。オペラそのものの難解さと相まって、とてつもない舞台が繰り広げられています。普通の人は観ない方がいいと思います。







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