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天国と地獄
(地獄のオルフェ)






オペラ・データ

【作曲】
ジャック・オッフェンバック 1858年

【初演】
1858年10月21日 パリ、ブフ・パリジャン座
1874年2月7日 パリ、ゲテ座(改訂版)

【台本】
エクトル・クレミュー、ルドヴィック・アレヴィ(フランス語)

【原作】
ギリシャ神話のオルフェオの物語に基づく

【演奏時間】
第1幕 60分
第2幕 50分  合計 約1時間50分



あらすじ

【時と場所】 
ギリシャ神話の世界、ギリシャと天国と地獄

【登場人物】
オルフェ(T): 音楽院の院長
ウーリディス(S): オルフェの妻
プリュトン(T): 地獄の大王プルート
ジュピテル(Br): 神々の王ゼウス
キュピドン(S): 愛の神キューピッド
世論(Ms): 世間一般の人々の代弁者
ほか

【第1幕】
時は神話の時代、舞台は現世と冥界。竪琴弾きのオルフェオは、愛する妻エウリディーチェを亡くし……と始まるところですが、ここでは少し違います。音楽院の院長オルフェとその妻ウーリディスは、すでにお互い愛想を尽かしており、二人とも浮気相手がいるくらいなのです。

オルフェは妻の浮気相手が毒蛇に噛まれるように罠を仕掛けます。妻ウーリディスは恋人に気を付けるように言いますが、毒蛇に噛まれたのはウーリディス自身。でも、ウーリディスの恋人は実は地獄の大王プリュトンだったので、これで晴れて二人で地獄に行けると大喜びします。もちろんオルフェも妻がいなくなって自由を謳歌できることを喜んでいました。

けれど、そんなに世の中、甘くありません。「世論」はオルフェに対し、妻を取り返すべきだと主張します。オルフェはしぶしぶ世論といっしょに神々の世界へと旅立ち、神々の王ジュピテルの前で、嫌々ながら妻を返してほしいと頼むこととなりました。その嘆願を聞いた神々とオルフェは地獄に行くことにします。
 
【第2幕】
地獄でウーリディスは退屈していました。なぜなら、地獄の大王プリュトンが、神々の王ジュピテルに彼女を取られないように、一室に鍵を掛けて閉じこめておいたからです。そうです。実は神々の王ジュピテルも大の女好き。美人だと噂のウーリディスをひそかにものにしようと企んでいました。

地獄に着いたジュピテルは、愛の神キュピドンに命じて自分を蝿(ハエ)の姿に変身させます。そして、鍵穴からウーリディスの部屋に侵入したのです。退屈していたウーリディスにとっては蝿でも何でもかまいません。二人は地獄から神々の世界へと脱出しようとします。

その二人をプリュトンが止めようと三角関係の争いをしていた矢先、そこに世論に伴われたオルフェが現れてしまったのです。そこでジュピテルは、現世に辿り着くまで決してウーリディスのことを振り返って見てはならないという条件付きで、夫婦を帰してやることにします。

妻を愛する夫なら必ず振り返ると思っていたのですが、オルフェオはなかなか振り返りません。そこでジュピテルは雷をオルフェの背後に落としました。びっくりしたオルフェが振り返ると、ウーリディスは再び天に召されて、誰もが喜ぶ結果となったのでした。



解説(ポイント)

【1】 オペレッタの歴史を開いた名作
 
オッフェンバックはオペラ作曲家としてデビューしようとしていましたが、なかなかその機会に恵まれませんでした。そのため、彼は自分で劇場を創設してしまいました。それが、パリのブフ・パリジャン座です。バイロイトに自分の劇場を建てたワーグナー顔負けの実行力ですね。しかし、創設当初は登場人物の数を制限されたオペレッタの上演しか許されませんでしたが、そのうち人気が出ると制限がなくなり、自由に上演できるようになると、オッフェンバックは水を得た魚の如く傑作オペレッタを生み出し、なかでもこの『天国と地獄』は代表作となります。この作品は1860年にウィーンのカール劇場でドイツ語訳で上演され、その後、スッペやJ.シュトラウスに代表されるウィーンのオペレッタ「黄金の時代」へとつながっていきます。
 
【2】 こんなパロディーにしてもいいの?
 
『天国と地獄』は有名なギリシャ神話を基にしたパロディーとなっています。妻を失ったオルフェウスの話は、例えば、現存する最古のオペラとされるペーリ作曲の『オルフェオとエウリディーチェ』、モンテヴェルディ作曲の『オルフェオ』、グルック作曲の『オルフェオとエウリディーチェ』など、多くの作曲家の霊感を刺激してきました。オッフェンバックのオペレッタは、批判精神に富んだ風刺や皮肉で客席の心を掴んでおり、例えば、この『天国と地獄』ではグルックのオペラから有名なアリアの旋律を頂戴しています。パロディーなのですから、まず基になったオルフェウスの話を知っておく必要があるので、グルックの作品を鑑賞してから、このオペレッタを見てみるのがいいと思います。
 
【3】 誰もが走り始めたくなるあの音楽
 
どうもパロディーを勘違いして、軽薄で粗末なお笑いで済ませた舞台も散見されますが、いい舞台に当たれば、上質のオペレッタが楽しめます。私は、「世論」の立ち位置がこのオペレッタをおもしろくしているのではないかと思っています。音楽面でも親しみやすいナンバーが並び、有名な『天国と地獄』のギャロップを聴けば、誰もが小学校の運動会を思い出してしまうことでしょう。他にも、あの神々の王ジュピターが、なんとハエになってしまいウーリディスと歌う二重唱では、“zi〜”とハエの羽音を表現した極めて特徴的な歌があり、このオペレッタの名物となっています。



おすすめディスク

【DVD】
ミンコフスキ指揮、ペリー演出
リヨン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
ブロン(T)デッセイ(S) フシェクール(T) ナウリ(Br)
オルメダ(Ms)
(録音1997年、Pioneer)
 
初演版に1874年の改訂版のいいところだけを取り込んだミンコフスキ盤。バランスが良く、しかもおいしいというわけで、このオペレッタの決定版になりつつあります。このDVDでは最高の歌手たちが集まっており、必見です。







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