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【作曲】 團伊玖磨(1950〜51年)
【初演】 1952年1月30日 大阪、朝日会館
【台本】 木下順二の戯曲『鶴女房』(日本語)
【原作】 日本の民話『鶴の恩返し』
【演奏時間】 全1幕 約1時間50分
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【時と場所】 昔々の民話の時代、雪国の村
【登場人物】
つう(S): 与ひょうの女房
与ひょう(T): 百姓
運ず(Br): 惣どの相棒
惣ど(Bs): 村の男
ほか
【全1幕】
時はいつとも知れず、舞台はある雪国の村。辺り一面が雪の中に、ぽつんと一軒の小さな農家がありました。ここに住む百姓の〈与ひょう〉に嫁いだ〈つう〉の織る布は高く売れると評判でした。村の男の中でも狡猾な二人〈運ず〉と〈惣ど〉は、ばかの与ひょうが金儲けをしているのに目をつけて、こっそり機屋(はたや)を覗き込みます。そうすると、そこに鶴の羽を見つけたので、二人はつうは鶴の化身なのではないかと疑いました。
二人が与ひょうにそのことを問い詰めてみると、与ひょうは以前に鶴を助けたことがあると言うので、ますます確信を持ちます。
そこで運ずと惣どの二人は与ひょうをたきつけて、つうにもっと布を織ってもらい、都で高く売ろうと誘いました。
与ひょうとつうが二人で夕食をしているとき、与ひょうはつうにもう一度あの布を織ってほしいと言います。つうはあの布を織ると痩せるので、布を織るのは最後だと約束したはずと断りますが、欲におぼれた与ひょうは、ついには「布を織れ」と叫ぶのでした。
つうは、布を織って与ひょうに都に行かせてやる決心をします。ただし、布を織っている間は、決して機屋を覗かないということを約束させました。
しかし、運ずと惣どの二人は、与ひょうが止めるのも聞かずに、そうっと機屋を覗きました。そうすると機屋では、一羽の鶴が布を織っているではありませんか。それを聞いて、与ひょうもとうとう中を覗いてしまいました。
痩せ細ったつうは、織り上げた2枚の布を持って機屋から出てきました。そして泣きながら、「機屋を見てしまった与ひょうとはもう一緒に暮らしていけない、もう人間の姿でいることはできないのだ」と言います。そして、遠くへと立ち去ってしまったのでした。
与ひょうは2枚の布を抱きしめながら、つうの名を叫び、呆然と立ちつくします。そのとき、一羽の鶴が夕日に向かって飛んでいったのでした。
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【1】 日本を代表するオペラ
オペラを少しでも知っている方なら、このオペラ『夕鶴』の名前は聞いたことがあるでしょう。1952年に初演されたこのオペラは(初演当時、作曲者の團は27才)、その後改訂を加えながら再演を重ね、上演回数は650回を超えています。外国でも上演されることも多く、欧米だけでなく、台湾、フィリピン、中国といった国でも上演され、まさに日本を代表するオペラであると言えます。
【2】 台本に忠実な作曲
「鶴の恩返し」として我が国で親しまれているお話で、木下順二による戯曲は、それだけですでに高い評価を得ており、その付随音楽を作曲したのが、團伊玖磨でした。團は、この木下の戯曲をほとんどそのまま台本として、オペラに仕上げたのです。このため、劇的に構成を損なうことなく、ドラマとして十分な効果を保ったままオペラになりました。こうした点も成功の一因であったのでしょう。
【3】 与ひょうの悲しみ
これまで多くのソプラノ歌手がつうを演じています。その中で、鮫島有美子さんは、その著書『プラタナスの木陰で』の中で、《どちらかといえば、私にとって主人公は「かわいそうなつう」ではなく、残された「与ひょうの悲しみ」だった》と語っていました。私もこのオペラの中で、残された与ひょうの何とも言えない気持ちに同情します。取り返すことのできない過ちというのは誰にでも一つや二つあるものです。
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【CD】
團伊玖磨指揮
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、鹿児島市立少年合唱団
鮫島有美子(S) 小林一男(T) 久岡昇(Br) 中村邦男(Bs)
(録音1994年、DENON) |
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作曲者自身による指揮で、通算600回上演記念公演を収録したライヴ盤です。鮫島有美子さんは著書の中でこのオペラについて、《私たちがこの現代のなかで失っていってしまったものは何だろう。それがテーマの下敷きとして置かれ、私たちは幕が下りた後、きっとそれをそれぞれの心の中で問い掛けることになろう》と言っています。
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