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イタリアの次にドイツのオペラの歴史を辿ってみましょう。
ドイツでも、イタリアと同じように、ドイツ独自のオペラを作りたいという気持ちがありました。イタリアでバロック時代に多くのオペラが作曲され、オペラが貴族社会に浸透していった頃、ドイツでは「ジングシュピール」と呼ばれる大衆向けのオペラが流行していました。
ジングシュピールとは、ドイツ語で歌芝居という意味の言葉です。イタリアのオペラが最初から最後まですべて歌われる、つまり、アリアとアリアの間の物語を進行させるセリフの部分もレチタティーヴォと呼ばれる朗唱で歌いきってしまうのに対し、このドイツのジングシュピールは、歌と歌の間は、普通の演劇のセリフのように会話をして物語が進行します。
モーツァルトの最後のオペラ作品となった『魔笛』はドイツ語のオペラですが、この作品もジングシュピールの形式を取っています。
ドイツの音楽と言えば、まずベートーヴェンが有名です。ベートーヴェンも、イタリアに負けないドイツのオペラを作ろうと思いました。ジングシュピールの形式で『フィデリオ』という名作を残しています。この作品は、さすがベートーヴェンのオペラだけあって、完成度も高いのですが、まだ少しイタリア・オペラの影響が残っています。
真のドイツ・オペラは、ウェーバーの『魔弾の射手』によって完成されました。ドイツの森を舞台にして、ドイツらしい色彩を持ったオペラがここに誕生したのです。このオペラが出発点となり、その後、数々のドイツ・オペラの名作が生まれることになります。
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「歌」を重視してきたイタリアのオペラに比べ、ドイツのオペラは、音楽と劇の一体化を目指していきます。あのグルックの「オペラ改革」の延長線にあるかのようです。こうして独自のオペラを打ち立てたドイツに、ある一人の天才が現れます。
その天才とはワーグナーのことです。ワーグナーは小さい頃、『魔弾の射手』を観て強い支持を表明しています。そして、『さまよえるオランダ人』『タンホイザー』『ローエングリン』など、それまでのオペラの手法を限界まで活用して、完成度の高いオペラを作り出します。
ワーグナーは、それだけでは飽きたらず、従来のオペラの枠を超えた新しい「楽劇」という概念を打ち立てました。これまでのオペラでは、ここからアリアですよ、ここから二重唱ですよ、というのが一目瞭然だったのですね。ところが、ワーグナーはこうした区切りがオペラ全体の流れを中断しているものとして、これを取り払います。全体芸術としてオペラ全体は歌の集合体ではなく、一つの作品だとしたのです。ワーグナーは楽劇として『トリスタンとイゾルデ』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を作曲しました。
また、『ニーベルングの指環』4部作は、『ラインの黄金』『ワルキューレ』『ジークフリート』『神々の黄昏』からなり、全部上演するのに4日間かかるという代物です。これをワーグナーは、自分で作った劇場、バイロイト祝祭劇場で上演しました。 そして、ワーグナーは最後に『パルジファル』を作曲しました。
音楽界にとってワーグナーの影響は絶大なもので、後進の作曲家はみな少なからずその影響を受けています。ワーグナー以後のオペラには、例えば、フンパーディンクの『ヘンゼルとグレーテル』などがあります。
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こうしたオペラの芸術性の深化は、逆にオペラよりもっと軽く、娯楽性の強いオペレッタというジャンルを生み出します。ウィーンでは、J.シュトラウスの『こうもり』、レハールの『メリー・ウィドウ』などのオペレッタの名作が数多く生み出されました。この流れはやがてミュージカルにつながっていきます。
とはいえ、ドイツでは1900年以降、ますますワーグナーの楽劇を進展させることとなります。R.シュトラウスはオスカー・ワイルドの原作による『サロメ』を書いて注目され、『エレクトラ』『ばらの騎士』『ナクソス島のアリアドネ』などのオペラを書きました。
R.シュトラウスはワーグナーのように時代の先へ先へと進むだけではなく、そこに留まって音楽から多彩な響きを生み出すなど、保守的な作曲家であったとも言えます。『影のない女』『アラベッラ』『カプリッチョ』など、これまでのオペラ史を踏まえながら、様々なタイプのオペラを創作していきました。
これとは逆に、ベルクのオペラ『ヴォツェック』や『ルル』は、無調音楽で作られており、その前衛的な内容からか、大衆はなかなかついていけなくなりました。
ドイツのオペラは、「歌」を主軸としたイタリアに対して、「劇」の在り方を追求してきたと考えるのもおもしろいかもしれません。こうしたドイツ・オペラの流れが、第二次世界大戦後、ドイツのオペラハウスで盛んに行われるようになった「ムジーク・テアター(音楽劇)」と呼ばれる前衛的な読み替え演出による上演形式の土台となったのでしょうか。
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