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10.オペラ鑑賞のマナー






人それぞれの考え方がある

さて、これからオペラ鑑賞をするときの「マナー」について考えてみたいと思います。オペラを観に行くのは敷居が高くて、マナーをきちんと守れるか不安な人もいるかもしれません。といっても、オペラ鑑賞のマナーが公式に存在するわけではありません。いや、公式に決められていないからこそ、気になるところなのでしょうか。
 
マナーについて考えてみる前に、前提として大切なことは、オペラ鑑賞に限らず、マナーについては人ぞれぞれの考え方があるということです。一方の人には迷惑だなと思われる行為も、もう一方の人は気にしないかもしれません。当然、その逆もあり得ます。ですから、まず自分は他人に迷惑をかけないようにするという根本的な精神を持って、その上で、他人の誠意を持った行為には寛容に接していくといった大らかさも持ちたいものです。



拍手のタイミング

オペラ鑑賞のマナーで、一番多く話題になるのは、「拍手のタイミング」ではないでしょうか。もちろんこれは、クラシック音楽のコンサート全般に共通したことなのですが、オペラは特にアリアの後に拍手をする習慣があるので、回数的に拍手をする機会が多いと思います。
 
特に、アリアの後、または各幕切れの拍手のタイミングが、「はやすぎる」もしくは「曲にかぶさっている」ことはマナー違反と指摘されることが多いです。公演によっては、劇場の入口で配られるキャスト表に、「作品の性格上、各幕切れの拍手は上演効果を損なわないよう、音楽が完全に終わり切るまでお控えくださいますよう、ご協力お願いいたします」とわざわざ記載されていることもあります。
 
これは、熱心なオペラファンが、アリアの終わり、または幕切れの音を「知っている」ということを誇示するためか、「ねらい打ち」で拍手する行為に対しての注意喚起でしょう。音楽の「余韻」を楽しみたいと思っている他の聴衆にとって、演奏の直後の拍手は何か自分の大切なものを壊されたように感じるのです。
 
確かにこの点は、マナー違反でしょう。意図的にフライングした拍手は、多くの人が鑑賞している中で、迷惑な行為だと思います。
 
しかし、一つだけ付け加えると、本当に感動してしまったときに、そういう拍手のタイミングのルールを知らないオペラ初心者の人、または初心者でなくても、つい、思わず、拍手をしてしまうこともあるかと思います。それはもう人間の自然な感覚なのですね。こういうときは、客席全体が寛容になってもいいのではないかと思います。それは、そうなってしまう音楽で、そうなってしまう演奏だったのです。ライブのいいところでもあるかもしれません。
 
私も大学を卒業して、少し演奏活動をしていたときに、後奏が終わらないうちに拍手が割って入ったことがありました。録音もしていましたし、大事な演奏会でしたが、悪い気持ちはしませんでした。人の感動表現は、他の人にも伝わるものです。
 
なかには、曲目によって、演奏者、主催者が、曲後の拍手をなしにするよう客席に求めることもあります。そういうときは、客席がその拍手をしないという行為を自然に受け入れられるように、演奏者、主催者が上手に説明してくれるはずです。
 
オペラに特有のこととしては、ここでは拍手をしないという決まりごとがある場合があります。ワーグナーの『パルジファル』では、儀式的な雰囲気を残すためから第1幕の幕切れの拍手をしないことが習慣となっています。こういうことは知っておかなければならないのですが、極めて珍しい例なので、入門者は気にしなくても大丈夫です。わかるように主催者が説明してくれるはずです。
 
さて、この連載では、初めてオペラを観に行く人を対象としていますが、そういう人は、拍手のタイミングにあまり気を遣うことなく、気楽にお出かけしてもらいたいものです。最初は、見よう見まねで周りの人が拍手をしたら、それに合わせて拍手をしていればいいのです。何も難しいことはありません。
 
最後に忘れないようにしたいのは、曲後の拍手ではなく、公演の最初の拍手です。劇場が暗くなり、オケピットに指揮者が現れると、客席は拍手で迎えます。とても人気のある指揮者、オーケストラの場合ですと、彼らが現れるだけで大きな拍手となるのですが、普段は曲後の拍手に比べてなおざりになっていることが多く見受けられます。これは礼儀でもありますので、続く演奏に期待を持って、しっかりとした拍手で迎えたいものです。



ブラボー!って叫ぶ?

拍手のほかに、オペラでは「ブラボー!」と叫ぶ人がいます。おもしろいですよね。すばらしい演奏には、拍手とともに「ブラボー!」と声がかかるのです。これも拍手のときと同じで、演奏直後の意図的な「ブラボー!」は、確かに迷惑な行為でしょう。このブラボーと叫ぶ人・・・仮にブラボーマンとでも呼んでおきましょうか・・・このブラボーマンにはオペラファンの中でも玄人(くろうと)の人であるわけで、マナー違反のブラボーマンは、より罪が重いかもしれません。演奏直後の意図的な「ブラボー!」に、腹を立てている人も多いのではないかと思います。
 
個人的には、ブラボーマンがいると劇場の雰囲気が盛り上がっておもしろいので、ブラボーマンにはがんばってもらいたいと思います。初めてオペラを観に行く人も、きっとその雰囲気をとても楽しめることでしょう。でも、ある意味、その雰囲気を生かしもするし、台無しにもするわけで、ブラボーマンには自覚を持って、盛り上げていただきたいと思います。



小さな音と小さな動き

さて、今まで見てきたように、その迷惑な行為が「意図的」であるか、そうでないかは、大きな違いとなります。例えばノドに違和感があるのに、演奏中なので咳払いを我慢してしまうこともあるでしょう。でも、それは人間の生理現象なので、適度な咳払いであれば、周りの人には気にならないものです。
 
一方、ノドの違和感を解消するのに、のど飴をゴソゴソとバックの中から取りだし、ビリビリと包装を破って口に入れる行為は、周りの人にしてみれば、非常に迷惑です。オペラ・・・つまりクラシック音楽は、演奏者の生み出す機微な音を、全身全霊をかけて聴いているものです。それを隣で、ゴソゴソ、ビリビリっとされると、それが飴玉を取り出すくらい小さな音でも気になるものです。知らずにやってしまった人でも、そのビリビリっという音が、思いの外、大きいことに驚くことでしょう。客席には大人数の人がいますが、その誰もが静かに息を呑んで演奏者の生み出した音を聴こうとしているのです。できれば、のど飴は演奏の始まる前までに口の中に入れておきましょう。
 
小さな音とともに気になるのは、音楽に合わせて、手や足で拍子を取ってしまう行為です。これも曲によりますが、ついつい体を動かしてしまうことがあります。しかし、手や足の動きは、隣の席の人にとって視野に入るものであり、その動きはとても気になるものです。また頭を拍子とともに動かすことも、後ろの席の人にとっては常に視野に入っているものであって、やはり気になるものです。つい動いてしまうことがあることは構わないとしても、やはり意図的な行為はマナー違反でしょう。



前に乗り出す行為

そう、後ろの人にも気を遣ってください。これは大切なことなのですが、明らかなホールの設計ミスで、前に乗り出さないと舞台が全部見えないことがよくあります。新国立劇場などは良い(悪い?)代表的な例でしょう。サイドや後方の席は、イスの背もたれに背中をくっつける、つまり普通に座ると、舞台が大きく欠けてしまいます。
 
全部の座席から舞台が全部よく見えるというのは無理な話なので、多くのホールで舞台が死角になってしまう座席があります。
 
そういった席に座った場合、なんとか舞台を全部視野に入れようと、前に体を乗り出して見る人が多くいます。やっぱりオペラなんて高いお金を出さないと見られないものですから、ついつい値段の分だけはしっかり見なくては、と張り切ってしまいがちです。
 
けれど、そうやって一人の人が前に体を乗り出すと、その後ろの席の人は、もっと舞台が見えなくなります。普通に座っていても舞台が欠けてしまうのに、前の人が体を乗り出したせいで、残りの見えていた舞台の部分も前の人の頭で見えなくなってしまうのです。後ろの人だって、高いお金を払ってオペラに来ています。自分だけが良ければそれでいいことはありません。
 
ですので、最低限、自分の背中は、座席の背もたれにくっつけておくようにしましょう。もちろん原則の話です。舞台、客席の中で、何か異変が起き、特に覗きたいとき、また、演奏が始まる前、指揮者のことを一目見ようとしたとき、演奏後のカーテンコールのときなどは、比較的自由にしても、それはお互い様でしょう。演奏中は、自分だけがよく見えるように前に体を乗り出さず、舞台が欠けてしまうのはホールの設計のため致し方のないことと諦めて、自分の持ち分の範囲で楽しむようにしましょう。

 
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